267.病気と迷い
「面白い作物を仕入れてきたよ~」
エイケさんとアウグさんが買い出しから戻ってきた。
露店の裏に回り、調理用のテーブルの上に広げる。
「焼いて食べるらしいんだけど、味はいまいちだけど色合いは綺麗だそうだよ」
「味は……本当にイマイチなんですけど、味噌鍋に仕えるんじゃないかと思いまして」
これってまさか、サツマイモ!? すごく良く似ているけれど、味はいまいちと言っているし品種が全く違うのかな。
エイケさんがナイフで切った断面はオレンジ色で水っぽくなんとなくニンジンっぽい。
「綺麗なオレンジ色だろ? これなら味噌鍋に入れれば会うんじゃないかと思ってね」
「あとは牛の干し肉を沢山仕入れてきました。 あとこれはシグさんに頼まれていた牛の骨です」
アウグさんは荷物の籠から、まだお肉が少しついている牛骨を取り出してシグさんに渡すと、すぐにお鍋に入れて持ち上げる。
「ステアー、今日の夕ご飯は牛骨を煮るからね」
車体の上で寝転がっていたステアーは飛び降り、シグさんの前で尻尾を振っている。
他の人と違ってシグさんはステアーのご飯を餌とは決して言わない。
「お野菜も入れるけれど、一緒に煮るからきっと美味しいからね」
上機嫌なステアーは今度は御者席に寝転がり再び眠り始めた。
「それじゃ準備を進めようかね」
「籠は沢山作ってあるけれど、料理をメインにやりましょうね」
以前よりも持ち手や周りのデザインに凝った作りの籠が増えた気がするけれど、何か工夫するきっかけでもあったのだろうか。
「籠は明日からやろうか、どれくらいの価格にするかも決めないといけないし」
「新しい丈夫な籠だからね。 きっちり決めておかないと」
「作るのも一手間ですから、他のより高くですね」
屋台のテーブルに置かれた籠をじっくりと見ると、やはり肝心なところである底や四隅に持ち手は三つ編みで織られていて丈夫、部分的にアキュラさんの被るヴェールのレースの柄、それに似たモノが持ち手の下部分に編み込まれている。
「本当に大変だからね。 この花みたいなものを編むの」
「でも、きっと売れますよ」
みんな何かと参考にしてどんどん作り上げていくなぁ。お料理も籠も刺繍も、もう何も手を貸さなくても、皆で自活できるんじゃないだろうか。
翌日の昼食から屋台を開き、匂いに誘われた人が店から味噌鍋を買い求める。
「肉が柔らかいな。 実に味とよく合う」
「リンド商会の料理と同じだが、やはり旨いな。 味噌鍋だったか?」
どうやら旅人や旅商人はリンド商会で味噌鍋料理を食べたことが居るらしく、それなりに広がっているみたい。知らない人が無理にまねして食中毒な代物つくらなければいいのだけど。
石鹸はこの町でも商人ギルドに直接持ち込んでごたごたが起きないように、という配慮でイルレさんがベネリさんと一緒に昼の販売も終わり、時間が出来たところで商人ギルドに持っていった。
一応販売が終わっているのだけれど、屋台兼露店を開いている広場にはまだ開いている店もあり、旅人や町の人達が買い物や食事を行っている。
「聞いたか。 ソミール夫人の話」
「あぁ、ご病気らしいな」
「まだ幼い子がいるのに、ご婦人も流行り病に」
聞き耳を立てているようで悪いけれど、それなりの声量で話しているので嫌でも聞こえてくる。
子供がいるらしいけれど、その子供とも引き離され。一人療養地にいるなんて辛いだろうなぁ。
「流行り病の薬はないし、近付いて移ったら困る」
「まぁ、しがない旅商人のうちらに売れるモノなんてないがな。 出入りの商会がどうするかは知らんが」
治ればいいのだけれど、この世界の医学レベルは分からないからなんとも、祈ってあげるくらいしかできない。
でも、この世界って病気を癒す神様っていうのは、まだいるのだろうか。禿げた爺様は沢山の神様が居なくなってしまったと言っていたし、病気を癒す神様がいたとしても大分力が弱っているんじゃ。
二日後、イルレさんとエイケさんが熱を出して寝込んだ。熱が酷いらしくて店も開けずに皆で介抱している。
「もっと水を汲んでこないと」
「しっかり」
「少しでいいから、食べないとだめだよ」
みんなは心配そうにしている。2人はあまり食事も喉を通らないらしく、もう3日間ろくに食べる事が出来ていない。このままじゃ衰弱してしまう。
自分なら助けられるかもしれないけれど本当にいいのだろうか、それがこの世界にとって正しい事なのだろうか。
助ける事で何かが変わってしまうのではないだろうか、でもそれはイルレさん達も含めるわけだし、自分がしている事は自己満足な事をしているだけじゃないのだろうか。
正しいとはなんなのだろう、世界にとって良い事とはなんなのだろう。皆が交代で夜も介抱している間にもずっと考え続けても答えは出ない。
「カイ、自分がイルレさん達を助けたとして、それは自分勝手な考えもあったけれどそれはアルスト教団の被害者だったからなんだ。 でも、時間が経った今も病気まで治してしまったら、それは」
「くだらない。 お前が治したいか、そのままにしておくかそれだけだろう」
カイがはっきりと言うように、できれば助けたいということ。どれだけ迷っていても、その事はかわらない。
「……町を出てよう。 人目がほとんどない所で出来る限りのことをするよ」
自衛隊の装備の中に医療に関わるものがあったけれど、かなり場所を取る事がわかっている。それだけに多くの人に見られたくない。せめて噂程度で終わるくらいに済ませて、時間と共に消失してほしい。




