268.病気の神様
丸一日かけて町から離れた場所を目指し道もない平原をんだ。ここまで来る間にイルレさんとエイケさんは意識が朦朧としていて、もうかなり不味い状況かもしれない。
生物剤対処用衛生ユニット SP100000
町から離れた小さな川がある平野にいくつも特殊なテントが繋がり、生物兵器にもそして感染症にも対処する陸上自衛隊 衛生科の特殊装備が並ぶ。
自分も少し覚えている、これは震災の時にも派遣された使用されたもの。他国の軍隊なら陸上自衛隊よりも充実しているかもしれないけれど、自分が病気に関してどうにかできるとしたらこれしかない。
テントの中から陸自の服と手袋を付けた顔のない人間が出てくる。やっぱりこの設備も自動で対応してくれるみたいでよかった。医療用の担架に意識が朦朧としているイルレさんとエイケさんを載せ、テントの中に運び込まれていった。
「……神様」
「二人とも無事でありますように」
皆が屋台車に置かれている商業だけど神様の像に祈っている。少しだけ祈るというというか、純粋に自らの力が及ばない事に対して、真摯に祈りを捧げるという事を始めたと言う事だろうか。
長い時間待っていると、二人を担架に載せて戻ってきた。何かしらの治療や点滴でも受けたのか、イルレさんとエイケさんの顔色が随分と良くなっている。
渡された紙には 《診断結果:風邪による栄養不足 処方:総合風邪薬+胃腸薬+栄養剤 三日間》 と書かれていた。
歴史上にあった大病かと思ったら、ただの風邪に伴う食欲不良からの体調不良なのね。ただ栄養剤が出ると言う事は、食事のバランスに問題があったのだろうか。
焦って生物剤対処用衛生ユニットを出したのは不味かったかな。まぁなんにせよ大したことじゃなくてよかった。
「カイさん、特殊な魔法っていうのは疲れると前に言っていたけど、大丈夫?」
「顔色が余り良くないみたいだけど」
元気になったけれど、みんなは何が起きたのかは秘密にしてくれるらしい。元々変なゴーレムというのは分かっていたようだし、カイの力だと思っている感じもあるのだけれど。
「少し眠る。 二人に何か問題が起きた場合は呼べ」
カイもそれらしく振舞ってくれるのでそう思ってくれるといいのだけれど。
今後も決して見られないように気を付けないと、カイの力だと思われたとしても大変な事になる、絶対に。
そのまま車内に入ったカイは布団の上で横になった。
翌朝、みんなが交代でイルレさんとエイケさんを介抱していても、だいぶ表情が良くなったのかほっとした表情で朝食の準備を始めている。
カイは起きると材木を片手に何かを掘り始めた。
「それはなに?」
「疫病と治癒の女神像だ。 男神は知らないが女神ならオレも知っているからな」
カイのいう神様ならこれもやっぱり広めておこう。病気を治す神様が居なければ、いろんな人も祈る事さえできない。もちろん祈るだけで治るわけではないけれど。
でも疫病ってどういうことだろう。
「あの、疫病って? それは不味い神様なんじゃ」
「すべては表裏一体、癒しもするが病を撒きもする。 裏切れば災厄をまき散らし罰として疫病を広めるのもまた神だ」
カイは平然と恐ろしいことを言っているのだけれど、天罰というものがあるのだから、もちろん疫病もそのうちの一つなのだろうか。
「これから神像を彫る。 しかし一旦町でイルレ達の体が落ち着くまで休んだ方が良いだろう」
「そうだね。 三日休んだ後、一度町に戻ってゆっくりしよう。 あと食事の栄養バランスというのを考えた方が良いかもしれない」
じっくりと休み、イルレさんとエイケさんの体調がもう少し良くなってから町に向かう。馬車の移動は割と疲れるから、無理はさせたくない。
「その前に移し替えないとな。 缶のまま飲ませるわけにはいかないだろう」
薬は錠剤がちっちゃいケースに入ってるし、栄養剤は缶タイプが出ている。紙袋に入っていたから皆は分かっていないだろうけれど、そのまま出すわけにはいかない。
車内に詰め込んである木のコップを取り出し、使う分だけ移し替える。
信頼はしていても、知られないほうが良いこともある、それにイルレさん達ならまだしも、まだ新しく加わった3人は良く分からないところがあるし。
最悪の場合は最悪の手段を択ばないといけないかもしれない。だからそうならないように、小賢しい手だとしても思いつく事はしておかないと。
「デュロ これを二人に飲ませるんだ。 味はいまいちだろうが、病気に効くからな」
「わかったよ~。 これでみんな元気になるかな?」
「あぁ、大丈夫。 しっかりと治って元気になる」
カイは車内から出ると薬と栄養剤の入ったコップをデュロに渡し、デュロは頷くと荷車の中で横になっている二人のもとに行った。
それから三日後、イルレさんとエイケさんは元気になり、ソミールの町に丸一日かけて移動。今回はすぐに露店の許可を取らず、広場で休みつつ川で水を汲んでゆったりと休息をとる。
病気の原因は食事も売り物はちゃんとしていても、みんなはいつのまにか実験料理の時以外は自分達で食べるものは質を落としていたこと。
自分は食事をする必要がないので気付かなかったのだけれど、3人が増えてから普段は最低限の食事で済ませていたみたいで、いつのまにか栄養バランスも何もなくなっていたみたい。
カイも食事をみんなと一緒に取る時もあるけれど、大体は車内で食べていたので気付いていなかった。
お金に余裕があっても倹約し過ぎてしまったらしく、太るのは論外としてもしっかりと食事をするようにカイがきつく言ってくれたおかげで、今後は気を付けるとイルレさん達は分かってくれた。
「三食味噌料理はもういや~」
それでもやっぱり、元気になったエイケさんの味噌料理の研究は止まらず、デュロが味噌料理に飽きて文句を言い出すのも仕方ない。
「すまないけど、味噌以外はまだ満足なモノできてないんだよ」
「アレどうですか? まだ少ししかないですけど、味噌の代わりに使ってみるのは」
アウグさんが何か思いついたようで、アレというものを言っている。
一体何の事だろう。
「アレ?……あぁ、あの黒い水かい?」
ざっくりとした簡単な説明
生物剤対処用衛生ユニット:
移動できる病院、内科外科に緊急手術まで出来る自衛隊の一式装備、その中でも特にウィルスや細菌兵器にも対応できる特別なモノ。
これがない国ではバイオテロとかに対応できません。




