266.行く先とソミールの町
AAV7の姿で暗い夜道を皆の所に戻ると、カイとステアーが皆が寝静まっている中待ってくれていた。
「無事戻れたか。 だが生存者はいなかったようだな」
「……誰もいなかったよ。 皆見つけた時には命はもうなかった」
「そうか。 残念だな」
ステアーは車体に飛び乗り、カイは後部から車内に入ったので、それを確認してから車体を荷車の前に停める。
車外に聞こえないよう小声でカイと何があったかを説明しないと。
「砦には、以前見た肉塊の化け物が居たんだけど、それがとても大きくて、頭部以外を何とかしたらこれが刺さっていたんだ。 そして引き抜いたら周囲の肉塊は全部溶けるみたいに消えたから、何か影響しているんじゃないかと」
車内にしまっておいた折れた短剣をカイが手に取り調べる。
「……穢れているが、元は神に捧げられていた品のようだ。 折れているが穢した者の大まかな方角くらいは分かる」
「折ったのはまずかったかな。 嫌な感じがして折っちゃったんだけど」
「いや折れていても穢れが酷い、無事なままならイルレ達は近くに居るだけでも何かしら影響を受けて危険だろう」
砕かなければもっと分かったかもしれないけれど、イルレさん達が危ないなら壊して正解だったかな。
「場所は、ここから南だな。 アルスト教団と大分近いようだが、それ以上は分からない。 この短剣はオレが浄化したあと、さらに粉々にして地中深く埋めてしまえ」
前にダンジョンで手に入れたコアクリスタルの欠片を取り出し、小さな欠片を握り締めると折れた短剣に振りかける。
「我が崇める軍神ヘイズよ。 我捧げたるは魔力の結晶、この穢れし存在を滅ぼし給え」
いつもと同じようにカイが崇める神様に何かを唱え始める。最初の言葉は分かるのだけれど、その後はよく聞き取れない。
それからダンジョンコアのクリスタルが光りながら消えていくと、それにともなって短剣にひびが入り黒い影が少し出てくると共に消えていく。
たぶん5分ぐらいしてからさらにぼろぼろになった短剣を受け取り、念動力で深くまで穴を掘って埋め、さらに近くにあった石を載せて穴を埋め戻す。もう二度と誰にも見つからないように。
朝になり、誰も生存者が居なかったことに皆は悲しみ、暗い表情の皆と共に一旦町へと戻る。誰も帰ってこない事に騒ぎになっているかと思ったけれど、まるで何事もないかのように騒ぎなどになってなかった。
「……さぁ、行こうか」
皆が暗い気持ちの中、町に留まることなく南へと出発。
あと一つ、さらに南に行ったところにあるはずのアルスト教団支部を潰して、東と北と南はおしまい。残るは西にあるはずの本部周辺だけとなる。あとどれだけかかるだろうか。
町を離れて南に進む事10日、街道沿いの広場で休んでいるたころ、兵士の人達に守られながら物凄く高価な馬車が街道を通り過ぎていった。
金銀の装飾が贅沢に使われ、周囲を兵士の人達が守っている。
住むために作られたステアー商会のとはまったく違うというか、今まで色々通り過ぎる豪華な馬車を見たけれどあんなに凄いのは初めて見た。
「あれは、病気だね。 近付くんじゃないよ」
「あの馬車の人、病気なの?」
疑問を持っているデュロにイルレさんがゆっくりと説明していく。
イルレさんの話では、病気になった貴族の人は馬車で療養の別荘に移り住み、そこで治るか死ぬまで出れることはないそうだ。
お付きの人や侍女の人も同じように、療養地に送られ、最悪感染しても治療されることもないという、かなり過酷な物のようだ。
「ずっと一人なんてかわいそうだよ。 前に飲ませてくれたお薬で治せないの?」
前って言うと温泉の所で数日休みを取った時にデュロに飲ませた物の事かな。
貴族の人が療養地に送られるような病が、市販薬で治るようなものなのかなぁ。いや、それよりもすごい薬があると思われて、今後頼りにされる方が困るかも。
「病気は簡単な事じゃないんだよ。 いくらカイさんでも、治せるものじゃないんだから」
エイケさんが諭すようにデュロに無理だと伝えてくれた。それから半日経った夕方ごろ経由する町 ソミールに着いた。
ソミールの町
入口を守っていた兵士の人とイルレさんの会話で、ソミールレイル侯爵という人の別邸が離れた場所にあり、ここは農業と染料が盛んな町らしい。
「今回は長かったから、三日休憩を兼ねて商売だよ」
「服の洗濯もしないとね」
「……出来た石鹸、売ってみたいです」
食料の買い出しと数日の休憩を兼ねて、この町で留まることにみんなはしたらしい。
自分もそれで問題はないし、今回もイルレさんが町にある商業ギルドから露店の許可書を貰ってくると、広場で川に一番近い所に陣取る。
「それじゃあたいは木材を買ってくるよ」
「食料の買い出しはあたしとアウグでやるよ」
「他の準備は私達に任せなよ」
手分けして準備を始め、広場に隣接する材木屋からイルレさんが買ってきたもので、屋台車を移動させて露店を組み立てていく。
今回は屋台と露店で料理・籠の二品目に、商業ギルドに固形石鹸を直接売却する予定らしい。普段している刺繍は布が特別だから売らない。
「あの……お茶、出来ましたよ」
エイケさん達が居ない間も、お茶を入れたり料理の基本的な仕込みをしたりしていた1人。
「無理しないでいいから、ダニエルは表に出ないようにゆっくりやりなよ」
まだ調子の良くない2人のうち、赤茶色の短い髪を後ろに纏めたダニエルさん。エイケさんみたいにふっくらした体系だけれど、少し背が低くて顔もちょっと幼い感じなところが特徴。
「あの、……大丈夫です」
「少しずつやればいいから、デュロ 手伝ってあげな」
ダニエルさんは少し無理をしようとしてしまうらしく、皆でアキュラとは違う意味で気をかけている。
一方でアキュラさんは荷車の中で刺繍をしたり、シグさんと一緒に狼のステアーを撫でたりと静かに落ち着いた生活をしていた。大分落ち着いたので、荷車の中で顔を出さないとはいえ、ハープを弾きながら謡うこともあり、皆の息抜きになったりしている。
吟遊詩人っていうのだろうか、そういったモノに才能があったらしく、よくハープを奏でながら色々な道中であった事を謳っていた。
時々それに惹かれた旅人や商人が訪ねてくることがあるけれど、イルレさんがきっぱりと断り近付かせることはない。ステアーも唸りながら近付くことを警告し、道中でアキュラさんの姿を見た人はいない。
「ステアー、どこ~」
デュロの声に車体の上で寝転がっていたステアーは頭だけを起こし、何かと見ているけれど面倒そうにため息を付きながら再び寝転がった。
暇な昼は大体眠り、お店が開いて居る時と夜は警戒する。ステアー自身それが仕事だと思っているみたい。




