265.汚濁
荒れた道には多くの人が踏み荒らした跡や、荷車の車輪の跡が残りそこを進んでいく。
すれ違う人は全くおらず、誰一人戻ってきていないのは確か、きっと先には屋敷か砦があり多くの人達が荒らしまわっているのだろう。
ロンドの町から半日ほどして砦のような石積みの建物が見えてきたけれど、声も何一つなく不気味に静まりかえっている。歴史の本を参考にするなら、奪い合いの酷い騒ぎになっているはずなんだけど。
それがまったく騒ぎの音も火を焚いている様子もない、しかも荷車があっても馬やロバみたいな牽引する家畜までどこにも見当たらない。周囲にいるはずの鳥とか動物の声も聞こえず、ただ不気味に静まり返っている。
「……すまない イルレ。 砦には近付いてはだめだ、お前達では手に負える状況でないらしい。 リョウ、砦が見えなくなる場所まで下がらせろ」
何かに気付いたらしいカイは厳しい表情で砦を睨み、中がまともな状況ではないらしいことを言っている。
言われた通り砦が見えなくなるほど道を一旦戻り、そこで荷車と屋台車を林の中に停車して隠す。
「リョウ 油断するな。 あそこは 地獄 になっているはずだ」
カイは車体から降りてそこに残り皆を守る、やっぱり皆を巻き込むわけには行かないし、カイなら皆を守れるけれど、酷い状況なら守れても危ないに変わりはない。
一台だけで砦まで再び移動し、壊れている門から砦の防壁の内側を覗く。視線の先は赤い、ひたすらに赤く、そして不気味な肉の塊が一面に広がり蠢ている。
「何、……これ」
町の人と思われる人型の物体や家畜はみな血まみれで、壁や地面にある口に貪り食われとっくに死んでいた。地面も砦の壁も、何もかもが生物の肉や臓物らしいものが蠢き、所々にある目が一斉にこちらを向く。
「ニエ」
「ニエダ」
「クイモノ クイモノキタ」
蠢く肉の壁や地面の口が、生き物を貪り食いながら不気味な声を上げている。聞こえてくる骨をかみ砕き、肉を咀嚼する音に、声を出す事も出来ず恐怖で固まってしまう。
大量の肉塊が脈打つように蠢き、防壁を除いて砦が地面に飲まれるように崩れ落ちると、広場はすり鉢状に凹み中心が大きな血と肉塊の混ざった池となった。
戦車の自分が8台は入れそうな広場となり、血と肉塊溜まりの水面からゆっくりと小さな人の頭部のようなものが表れこちらを見つめる。
頭髪も眉毛もない虚ろな瞳のまま表情、突然口元が大きくゆがむと大きな血しぶきと肉塊を噴き出し、人や動物が混ざり合って構成された巨大な腕が水中から表れ、這いずるように骨と臓器だけで構成された巨大な上半身が出てくる。
どの部分にも不規則に人や動物が結合し、助けを求めているのか仲間にしようとしているのか、人や動物の手足は不気味かつ攻撃的に振り回されている。
「「タスケ……タスケ……、コロシテヤル!」」
肉塊にくっついている人面からは怨嗟の声を上げ、前にもあった嫌な感じ、そんなものとは比べものにならないほどおぞましく恐怖と吐き気が襲ってくる。
生命の倫理観とかそんなもの何もかもが砕けて、歪まり切ってしまって何がなんだがもはや理解が出来ない。
「お”ぎゃあ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”!!!!!」
巨体の化け物から叫び声とは異なる、ないはずの身の毛のよだつような産声に車体が震える。
「また、こんなっ! なんだよ!!」
震えて動けない体を動かすために大声を上げながら10式に車体を変更し、74式も遠隔操作しながら主砲と機銃を撃ち始める。
撃ち込まれた戦車砲弾と機銃弾で巨体な化け物の肉片が飛び散るけれど、それでも少し怯むくらいで再生しながらこちらに向かってくる。
急いで90式も即4000SPを消費して取得、同じく遠隔操作で狙いを定め3台の戦車砲と機銃で撃ち続ける。
3台になったことで再生するよりも砕け散る速さが上回り、こちらに向かってくるのをやめ、両腕で身を守りながら徐々にその体積が減っていくけれど、周囲の肉塊を取り込み失った体積を補充されてしまう。
「い”ぃ”っぃぃぃぃ!!」
不気味な雄たけびと共に周囲に転がっていた肉塊混ざりの石塊を掴んで腕を振り上げ投擲、避ける暇もなく74式の砲塔に当たり、砲身横に装着されているライトが壊されてしまう。
次々と投げられる大きな石肉塊は90式や74式の車体を揺らし、外側についているライト等を壊すけれど、戦車を壊すどころか砲身を曲げる事もできない。
それでも石塊からはがれて車体にへばりついた肉塊は蠢き、車体を削るように動き続けている。
化け物が周囲の肉塊のほぼ全てを取り込んでも、あきらめず繰り返し撃ち壊し続けたことで、頭部以外を失いようやく巨大な化け物は動かなくなった。
「ヒッ、ヒヒヒヒッヒ-ッ!」
首だけになってもいまだ不気味な声を上げている肉塊の化け物に、吐き気を催す感覚を抑えながら近付いていくと、残された頭の部分には黒い短剣が深々と突き刺さっているのが見えた。
すごい嫌な感じがする頭部を念動力で持ち上げ短剣を引き抜くと、周囲にあったまだ少し脈打っていた肉塊や骨が全て溶け落ちる。頭部も肉が溶け落ちて普通の人間の頭骨だけが残された。
「もしかして……、これがここで起きた原因?」
頭蓋骨を地面に置いて短剣を車体のライトの光に照らすると、それは石を削って作られたような歪なもの、ただし凄く嫌な感じがするし、目の錯覚なのか黒い靄みたいなものがまとわりついているようにも見える。
何度もライトの当て方を変えても、目を凝らしても見える黒い靄、嫌な感じがするため念動力で粉々に砕くと、黒い靄が短剣から徐々に離れると消えていった。
妙な感じがするので念のため、取っておいてカイに聞いてみるため折った短剣の柄を車内にしまい周囲を見回す。
静けさを取り戻した砦の内側はただ大きな血の池、そして溶け落ちた肉と飛び散った血だけが広がり気色の悪い光景が広がっている。
自分は90式と74式を戻し、念動力で血や溶けた肉片がこびりついた土や石壁、全てを集めて血の池に沈めて埋葬を始めた。なんであれ死んでしまえば、化け物だろうと取り込まれた人であろうと等しく同じ、石等にこびりついたものはそのまま血の池に沈め、周囲の土をかき集め完全に埋め立てる。
最後に転がっていた横に長い石板をその上に突き刺し墓標替わりにするけれど、この世界の文字は書けないので代わりに十字架を刻んでおく。
「……死者が安らかに眠れますように」
瞑目を捧げたあと砦の瓦礫をどかし、地下室や残っていた防壁の中にある部屋を見るけれど、誰一人生きている人はいなかった。血肉の化け物に取り込まれてはいなかったけれど、牢屋に入れられた男女は嬲られたあとを色濃く残し、そして息絶えていた。
全ての死体を運び出し、砦の外に穴を掘り埋めて冥福を祈る事しかできない。他に教団を襲撃する人が居ても、それでも被害に会う人は消えず、そしてアルスト教団でなくても悪質な人達は似たことをしているはず。
自分は一台、出来るのは見聞きした範囲にあるものを、本来の目的と一緒に対処するくらいしかできない。自分は神様でもないのだから、出来る事なんて限られる。
「助けられなくて……、ごめん」
納入品一覧から桜の木を取り出し、お墓の上に植えて砦を離れ皆が待っている場所に車体を向ける。
アルスト教団の跡地には巨大な肉塊の化け物、そして化け物の頭部に刺さっていた短剣、自分の知らないところで何か宜しくない事が起こっているのは確か、何がどうなっているのか分らないけれどなんとかしないと大変な事になるくらいは理解できる。
あんな化け物が沢山出てきたり、もっと巨大になってしまったら自分でも倒せないかもしれない。カイが短剣の残骸で何かわかると良いのだけれど。
日も暮れ始め、薄暗くなってきた
久々のざっくりとした説明
90式:
自衛隊で1990年に採用された90式戦車、
第二次大戦後第三世代と言われる戦車、世界標準で見ると並みより若干良いらしい。
一応アメリカ等からそれなりに評価もされてる。74式戦車より重いし大きいので北海道にだけ配備されてます。




