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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
262/313

262.残党

 一旦みんなの居る場所に戻ると、剣こそ抜いていないようだけれど、カイはみんなを守るように陣取っていた。


「戻ったか。 どうやら盗賊どもはここまでは来なかったようだな」


 みんなには何事もなかったみたい。それは良かったのだけれど、デュロはどこだろう。


「クラブ競技出たかった……」


 デュロの声に周囲を見回すと荷車の御者席でデュロがフサフサクラブのトーラスにくっ付いていた。

 残念そうにしているけれど、町に襲撃があったのだから開催とり辞めは仕方ない。


「……戻ったよ。 遅くなったね」


 少ししてイルレさんが戻ってくる、疲れた表情なのは戦ったからだけではなく、多くの男連中を相手に立ち回ったせいだろうか。

 一番落ち着いているとはいえイルレさんも被害にあった一人、やはり疲れるときはあるんだと思う。


「すまないがイルレ、夕方からステアーを追いかける。 店を閉めて大人しくしていてくれ」


「わかったよ。 済まないけれどあたしは疲れたから露店と屋台は閉めさせてもらうわ」


 イルレさんは腰に下げていた剣を外し、エイケさん達も手伝って手早く屋台や露店を片付ける。自分も夜間は屋台を閉める為に用意してあった丸太で店の前を塞ぎ、古い幌布で覆ってしまう。これで閉店中ということ。


「エイケ、大変とは思うがイルレに代わってギルドに赴き、女冒険者を数日護衛に雇って身を守れ。 金貨数枚使っても構わない」


 エイケさんは頷き、受け取った金貨でギルドから5人の女の冒険者の人達を雇い、自分とカイは逃げた8人を追うことになった。





 夕方に町の門を抜けて外に出るけれど、どこに向かえばいいのかわからない。


「それで、どうやって場所を知る?」


「暗くなればステアーが遠吠えで場所を知らせる。 それまでは離れた林で待て」


 町を出てから少し離れた街道の横で夜まで待機、夕日も完全に沈んでからすぐに遠くから聞こえる狼の遠吠えが聞こえてくる、ステアーの物なのかはわからないけれど。


「聞こえた。 あちらの方角だ」


 カイはステアーの物だと確信し、指さした方角の街道を進み始める。

 星のほとんど出ていない夜道には誰も居らず、たぶん真夜中になったくらいの所で、進む方向が街道から外れたので車体をAAV7からティーガーⅡに変更、小さなライトを照らしながら道なき道を進み続ける。

 地面を何かが駆ける音がしたあと、黒い影が車体に飛び乗りカイの前に降り立つ。


「ステアー、ご苦労だったな」


 車体に飛び乗ったステアーは怪我一つなく、その場に座ると大人しくカイに撫でられている。

 カイは水筒を取り出すと小さな器に水を注いでいる間、ステアーは丸太の間に隠してあった干し肉を引っ張り出し、夕食の代わりに食べながら水を飲みはじめる。


「ステアーは少し休んでおけ。 リョウ、目的は近い」


 車体の上で横になってステアーは休み、そのまま夜道を進み続けると壊れかけた山小屋やテントが無数に並んでいる集落が見えてきた。

 ステアーは身を起こし、声を出してはいないが毛を逆立てて集落を見ている。どうやらあそこが目的地らしい。

 小さくカイが何かを唱えるとホタルのような極々小さな光現れ、が集落に向かって飛んでいく。たぶん10分ほどくらい経ってからホタルのような光が戻ってきた。


「数は……そうか、9人だな。 よくやったステアー。 少し離れて待っていろ」


 9人と言う事は今回の襲撃でほとんどいなくなったことになる。

 カイの言葉に車体から飛び降りステアーは来た道を少し戻っていく。巻き込まれないためでもあるけれど、大きな音をあまり好まないステアーだから離れる。


「リョウ 逃げられる前に一気に仕留める。 残党は盗賊よりも質が悪いからな」


「大丈夫、覚悟は……出来てるよ」


 アルスト教団は誰も生き残りは出さない。炊事の煙が上がっているのは山小屋だけ、恐らく他にはいないと思うのだけれど。


「奴らは皆山小屋に居る」


 静かに主砲の狙いを定め、轟音と砲炎が夜を引き裂く。帽付徹甲榴弾は容易く石が積み上げられた壁を破壊し内部で炸裂した。

 本来対戦車用に作られた砲弾は、積み上げられた石で建てられた山小屋が耐えられるわけもなく、粉々に砕け散り、遠目とはいえ赤黒い物が飛び散るのもわずかに見えた気がする。

 轟音が消え少し経つと、一人だけ服が破れ血まみれになりながら山小屋の残骸から這い出してきた。その表情は怒りと恐怖らしいものが張り付き、血まみれのために一歩下がりたくなる恐怖心を感じる。


「畜生……なんで、酒も女もあったのに! てめぇらのせいで!!」


 ぼろぼろの教団員は近くに落ちていた石を掴み、立ち上がるとこちらに投げてくる。

 酒も女も、それは教義で集めただろうモノ、それを無くしても努力するのではなく、奪う事しか考えなかった。苦労せずに得る決断しかしなかった、

 まだ余裕がると思う状況でもそれを選ぶと言う事、それはこれからもずっと、奪う事しか考えないということ、


「奪っていただけだろうが」


 カイは冷たく言い放つと投じられた石を手で受け止め、投げ返すと男の額に当たり血を吹き出して後方に倒れた。

 遠目ではあるけれど、頭部が派手に弾けたようにみえた。間違いなく死んでいるだろう。


「あとを片付けるよ。 何もかもなくなるように」


 念入りに崩れた山小屋の跡を踏みつぶし、周囲をステアーが探して回ってくれたので、生存者がいない事を確認できた。

 携帯放射器をSPを消費して取り出し、山小屋跡やテントなど全てを炎で焼き尽くす。何も残さず何もないように。何もなかったかのように。




 清々しさも全く感じない、戦う時と気持ちを切り分けようと努力している中、朝日が差す頃AAV7の姿に戻り朝日の差し込む中シアタカ町に向かう。カイとステアーが車内で眠り、鳥や動物たちが目覚め動き出している声が聞こえる。


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