259.特別にお譲りします?
「その節はお世話になりました」
使用人の人達が丁寧に頭を下げる様子からして、身勝手だったり傲慢な感じはしない。
「それで、また石鹸が欲しいのかい? いまなら在庫があるよ」
「ぜひともお願いします。 可能であれば他にもあれば売って頂けないかと」
「ほか、かい?」
「はい。 他にも何か珍しいものが御座いましたら、販売して頂きたいのです」
どこかで販売している物の情報でも仕入れたのだろうか。
確かに自分がいる商隊なんて他にあるわけないし。
「籠と布くらいはあるけれど、料理が商会の主な商品だからねぇ。 あんまりないよ?」
イルレさんなりに伏せている。味噌とかお茶擬きとかタオルとか色々あるけれど、それは大事な商会の商品だけど、そもそも大量販売できるものじゃない。
「少しでも構いません、 パーティーに必要なのです」
どことなく焦りが見られる表情に、なにか事情がありそう。
それについてイルレさんも気付いたみたいで、
「何か事情がありそうだけど、何はともあれ屋台に入りなよ」
イルレさんは屋台にある席に座るように促し、エイケさんがお茶っぽい物を出して話を始める。
あまり良い椅子じゃないし屋台のカウンターは良いものではないけれど、それでも構わずお嬢様も使用人達とともに座った。
「不思議なにおいがする飲み物ですね」
「お茶とは違うけれど悪くはないでしょ? これは売り物にしてないけれど、皆で普段飲んでいるんだよ」
これは皆が村々で買った果物の皮を干した後、いろいろ飲んで試したもの。味が良いものくらいしか何度も作らないから、美味しい物しか残らない。
最初は自分がぼちぼちと作っていたのだけれど、いまでは皆が作るようになったから結構在庫の量がある。
イルレさんが事情を聴いてみると、貴族の立場として伯爵様の誕生祝のパーティーがあり、祝いに何かを送らなければいけないらしい。
その為に自領地で珍しい物や特産品を探していたのだけれど、見つからないわ襲われるわでぜんぜんだめだったらしい。
それで以前に譲った石鹸に気が付いた時には、すでに使い込んでいたのと数が少なくて断念したとのこと。
「そういうことかい。 貴族様も大変なんだねぇ」
イルレさんは頷きながら話を聞いているけれど、そんなことは分かっているという感じがする。やっぱりイルレさんと元兵士は兵士でも、貴族とかに直接仕えていた兵士だったんじゃ。
「状況はわかったよ。 でも石鹸はいま10個しかないし、生地もほとんどないからそれで我慢してくれるかい」
「それでもかまいません。 ぜひとも売って頂きたい」
イルレさん達は皆で荷車や屋台車から荷物を見て話し合いながら、少しずつ屋台の前にある露店に並べる。
石鹸を10個
ステアーと月をイメージして刺繍した生地を一反
結構な量を売るみたいだけれど、品物として納得するだろうか。
「ありがとうございます。 新しい石鹸は伯爵様の奥方に喜んでいただけると思います。 こちらの生地も、花ではなく狼と月をイメージした刺繍がされ、生地も良いですし素晴らしいですね」
そりゃまぁ、本来は自衛隊で使われているカーテンなので、この世界の生地よりもずっといいと思います。本来はいろいろ誤魔化して売ってしまうつもりだったけれど、イルレさん達が良いと思うのなら譲っていいと思う。
「御代はお支払いいたします。 この町に居る間に何かありましたら、当家シャルチをお尋ねください」
シャルチ子爵と書かれた小さな羊皮紙をイルレさんに渡し、丁寧にお礼を言って馬車で帰っていった。




