258..お貴族のお嬢さま
「まだ開店前だけど、何かごようですか?」
代表としてファルさんが対応する為に屋台の前に出る。
ステアーは注意深く屋台の横で様子を窺っているのだけれど、使用人のような男の人は丁寧に頭を下げる。
「当家のお嬢さまが、以前ゴーレムを連れる商人から大変珍しい物を購入した申しておりました」
お嬢様 珍しいもの 石鹸の事かな。
結構前に盗賊に追われて服が汚れてしまった貴族のお嬢さまがいたけれど、その時にお風呂を貸したからその時の関係者ということかな。
「いつの頃の事なのかわからないと、それで何か買いたいと言う事でしょうか。 それでしたら今買い出しに出かけている詳しい人が来るまで待ってもらえませんか?」
ファルさんもだいぶ慣れたと言っても、やはり一人で男の人を相手にするのは嫌そうで、少し眉間にしわが寄っている。
やっぱりイルレさんやエイケさんが対応するのが、いいのだろう。アウグさんでもいいけど、なんていうか生きが良すぎるんだよなぁ
「そうですか。 ではまた時間を置いて伺います」
丁寧に頭を下げると屋台車から使用人を名乗った男の人は離れていった。
ファルさんは大きくため息を付くと、皆と共に再び屋台の準備を続ける。
イルレさん達が大量の食材と共に戻ってくると、屋台車の中や裏に運び込んでいく。
「イルレさん、使用人らしい人が訪ねてきたよ。 なんでも以前あたし達から珍しい物を貴族のようなお嬢さんが購入したとか。 また後で来ると言っていたよ」
「一体何を売った時の事だろう? なんにせよ、また後で来るならその時に聞こうかね」
ファルさんの話にイルレさんも少し首を傾げているけれど、余りに気にしている様子もない。でも、車体の後にまわり、開いて居る中で休んでいたカイにイルレさんが声をかける。
「カイさん、もし以前に渡した石鹸とかタオルとかだったらどうする?」
車内で小さい木の神像を彫っていたカイは手を止め、少し考える。
「そうだな。 丁寧に接してくるなら少し譲っても良いだろう。 だが、高圧的に来るならオレが対応するから安心しておけ」
「わかったよ。 いざという時はお願いね」
イルレさんは再び屋台車に戻ると、みんなと
「香辛料も色々買えたから、これからがんばるよ!」
「やりましょう! 新しい料理を!!」
エイケさんとアウグさんがやる気になるのは良いこと。きっと新しい料理を作るべく頑張ってくれると思う。
できれば何かヒントを上げたいのだけれど、この世界で流通している物がわからないし、何がヒントになるのかさっぱりわからない。
今のところ思いついているのは、味噌を失敗してしょうゆっぽいものになることくらいだろうか。何も言わないでも、前回こげあじっぽいものが付いてしまったきなこ擬きとか完成させそうだけど。
何か力になれないか、また夜にBX・PXの雑誌の中でも料理関係を読んでみよう。
夕方になり、屋台と露店の準備が出来上がった頃、使用人の人と共にどこかでみたことがあるようような、赤毛のお嬢様が馬車とともに訪ねてきた。
「ようやく再び出会えました。 以前はお世話になりました」
イルレさんが代表者として話をしている相手も、どうも見た覚えがある。
「あぁ、あんたは泥に汚れた馬車の時の」
なるほどあの時ね。追われて馬車がドロドロになり、その泥汚れで服が汚れてしまったお嬢様。
ということは求めているのは石鹸かな。




