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非幸福者同盟  作者: 相羽裕司
第十話「夏の雪明り」
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207/277

207/八月十四日2~聖女の話

 夕方。一級河川の河川敷のベンチに座り、独り河の流れを眺めていると、中谷理華がやってきた。


「アスミさんが、君が来なかった場合のプランと、君が来てくれた場合のプランを考えた。可能性はあると思う。どちらにせよ、あれなら敵を海にまで誘導できるのではないかと思う」


 理華は端的に要点を切り出した。


「私個人は後者を願ってる。アスミさんの側に、いてやらないのか?」


 ジョーは一度だけ顔を上げて理華の姿を認めたが、何も言葉を返さなかった。


「こんな集団の長をやっているから、高齢のお年寄りの最後に立ち会う経験を、普通の同年代の人間よりはしているのだけど。どんなに個と進歩を掲げてこの競争世界を生きてきた者だとしても、最後の時、人間は親しい人間に側にいてほしいと願うものだよ」


 理華の言葉はジョーには響かない。


 理華はそれでも、彼女なりの正直さで、ジョーに伝えるべきことを伝えていった。


「大きい企業と手を組んでいてね。この街で、エネルギー供給の根本を改善する計画を進めているんだ。この街を優しい場所にしたいと思ってる。


 明治維新の時に、世界が新しい枠組みに変わっていく中、それに適応して栄えていく者達がいた一方で、多くの気狂いが出たのは知ってるかい。急速な変革に、人の心は耐えられないんだ。これから、オントロジカを中心に世界に起こってくる大変革は、明治維新の頃のそれを凌駕する。私はね、そんな時代の過渡期で傷つく人の心を守りたいと思ってる。この街を、そういう場所にしたいと思ってる」


 理華の話に対して、ジョーは低い声で、一言だけ答えた。


「だとしても。その優しい街のためにアスミを犠牲にして良いことにはならない」


 理華は短く、「そうだね」と即答した。


 弁が立つという以上に、精神の深い所で「言葉」というものを扱うのに長けている聖女であった。論駁しようと思えば、ジョーの思考など一蹴にできたであろうに、理華はジョーに対して労わりの視線だけを落として、しばらく何かを祈っていた。


 宗教者のものを連想する祈りを終えると、聖女・中谷理華は静かにジョーの元から去って行った。

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