↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/3

ゆずれないもの

俺の親父は屋台の焼き鳥屋を営んでいた。


東京郊外の市町村を主に回っていた。


焼き鳥以外のことにはてんで興味なくて、家族のこともほったらかし。


けど、俺が焼き鳥に興味を持ってからは仕事に連れて行ってくれるようになった。


俺がはじめて焼き鳥を焼いたのは6歳の時だ。


当然味付けも焼き加減も全部親父の指示通りにやっただけなんだが、自分が美味い食べ物を作れたってことに感動して、そこからは焼き鳥を焼くことに病みつきになったものさ。


親父もまるで興味のなかった自分の子供が、焼き鳥にハマったのが嬉しかったみたいで、

かなり厳しかったがみっちり焼き鳥を教えてくれた。



最初は母親も、親父が俺を仕事に連れていくのを喜んでいたが、

親父は小学校を休ませてまで、俺を仕事に連れて行くようになった。


それから毎日のように夫婦喧嘩をするようになった。


「焼き鳥を焼く以外のことに意味なんてない。学校なんて辞めさせろ。こいつには俺の屋台を継がせる」


親父は母親の制止を強引に振り切って毎日俺を仕事に連れて行った。


だが、俺も小学校に未練はなかった。

どんなに怒鳴られても殴られても、日に日に美味く焼けるようになるのが楽しかったんだ。


最終学歴が幼稚園になっても、俺は焼き鳥屋になりたかった。


だけど親父は日に日に、俺に焼き鳥を教えなくなっていった。


俺の腕を認めてくれたのかと思ったが、親父はなんだかイラついていた。


そしてある日、親父は書き置きを残して家を出て行った。



「俺の焼き鳥はこんな狭い地域で終わるべきじゃない。俺は世界を周る。子供は学校に戻せ」


親父は俺の腕を認めてくれたんじゃない。

教えるのに飽きてたんだ。


大人になってわかった事だが。

人は一つのことをある程度できるようになると人に教えたくなる。


けど親父は教えるのにもすぐに飽きて、再び自分の承認欲求を満たしたくなったんだ。


そういえば親父は一度も俺の名前を呼んだことがなかった。

いつも「子供」と呼んでた。

たぶん自分で名付けた名前を忘れてたんだ。



それから母親は女手一つで俺を大学まで行かせてくれた。



不思議と俺は焼き鳥を嫌いにならなかった。


仕事で忙しい母親に代わって自分で食事を作るようになった中学生の頃から、毎日焼き鳥を焼いて食べた。


思えばそれからほとんど焼き鳥しか食べてない。


他人の意見も聞きたくて、放課後にクラスで仲間外れにされてる連中や、はぐれ者を集めて焼き鳥を振る舞ったりもした。

そんな事をしてたらいつの間にかクラスのリーダー的ポジションになってた。


他人が自分の焼き鳥を美味しそうに食べるのを見てさらに焼き鳥が好きになった。




俺は焼き鳥王になる。

焼き鳥王になって、焼き鳥関係のコネクションを広げて、今も屋台を続けてるだろう父親を探し出す。


そして一発ぶん殴ったあとに焼き鳥にしてお袋に食わせる。


それが俺の夢だ。



そのために世界一の焼き鳥屋、「鳥地獄」に入社して、焼き鳥の見聞を広げ、有名になる。

ここから俺の闘いが始まる──






──焼き鳥居酒屋「鳥地獄」新宿本店。



「おはようございます」


ホールには誰もいない。

鍵は開いていたから誰かしらは居るはずだが。


バックヤードを進み従業員控室に入る。


「おはようございます。本日からお世話になります、皮田(かわだ)砂肝(すなぎも)と申します。なんでもやります!よろしくお願いします。」


従業員控室のテーブルには、4人の従業員らしき人物達が座っていた。


「へぇ~君が噂の?聞いてるよ、オーナーにタンカ切ったらしいじゃん?」

金髪に顔中のピアス、とても大手企業の社員とは思えない風貌の男が言った。


「初日の新人が先輩より遅く出勤か?オーナーに気に入られてるのか何だか知らないが、仕事舐めるなよ?」

スキンヘッドにガスマスク?2メートルは超えているだろう巨躯。こちらも別の意味で大手企業の社員には見えない。


「えー結構可愛いじゃん?ちょっと顔濃いけど、中の上って感じ?イジメてやろうと思ってたけど、どうしようかな〜」

腰まで伸びたピンクの髪、太陽など1秒も浴びたことがないかのような真っ白い肌に濃いメイク、料理に携わる者には似つかわしくない、鉤爪(かぎづめ)と呼んでもいいくらいのネイルアート。しかしその派手な特徴全てを吹き飛ばすほど顔が整っている。不思議な妖艶さの漂う女性だ。


「別にだれでもいいけど、トラブルは起こすなよ?めんどいから」

パソコンの画面から目を離し、こちらを見てるようだが、その目線が確認できないほど伸びた前髪、小柄な体躯。他の三人とは打って変わって地味な風貌だが、一番近寄りがたい雰囲気がある。



(こいつら・・・全員顔に似合わず指先の皮が異様に分厚い、チャラチャラしてるように見えるがかなりの職人だ)



「お前ら、そうイジメてやるな。我々は日本一の企業だ。新人に対して日本一の育成をしようじゃないか」



立ち尽くす砂肝の後ろからよく通る声が響いた。


一目見て高級だとわかるベージュのスーツに細いシルバーフレームの吊り上がったメガネ、上品さを失わない程度にサイドを刈り上げた黒髪のオールバック。絵に描いたようなインテリ男がうさん臭いほどの笑顔で場をなだめる。

焼き鳥居酒屋チェーン店「鳥地獄」の社長、鷹井(たかい)だ。


「昨日はご苦労だったね皮田くん。まったく、いつもは私と幹部で面接をするんだが、昨日はたまたまオーナーが面接をやると言い出して聞かなくてね。私としては他に気に入った子もいたんだが。まあ彼らの分も君に期待させてもらうよ。皮田くん」


(ちっ、どいつもこいつもオーナーの独断で入った俺が気に入らないってか。面白え。こいつら一人一人、ガチンコで焼き合って認めさせてやるぜ)



「俺だ!」

オーナー、鷲尾(わしお)豪骨《ごうこつ》が従業員控室のドアを蹴飛ばし出社してきた。


「来たな皮田砂肝、今日からお前の人生最大の地獄が始まる、だがその地獄を這い上がった先にあるのは、虚無か、それとも王座か、お前次第だ!」

鷲尾は昨日と同様、銀の瞳をギラつかせて砂肝を威圧する。


「はい、望むところです。」

今日もまた砂肝は目を逸らすことなく応える。


「よし!行くぞ!まずはホールの仕事を覚えろ!簡単に焼き場に入れると思うな!」



運命の歯車は回り始めた。



焼き鳥居酒屋「鳥地獄」新宿本店。

開店──




開店と同時に多くの客が入り、ほぼ満席となった。


(くっ、さすが日本一の焼き鳥屋、初っ端から手加減なしか)


焼き鳥居酒屋でのバイト経験はあったものの、早速大規模チェーン店の洗礼を受ける砂肝。


タブレット端末での注文が主流の昨今、効率化はされたが、それでもピーク時の従業員への負荷は相当のものだ。



ピンポーン


注文以外で店員を呼び出すため、各席に設置してある呼び鈴が鳴る。


砂肝がすぐさま駆けつける。

「はい、いかがいたしましたか?」


大学生3人組の席だ。


「あー、とりあえず生ビール3つと・・・」


「すみません、注文はタブレットからお願いします」


「え?そうなの、まあいいやとりあえず生ビール3つと、焼き鳥盛り合わせ、タレで」


真ん中分けの大学生が気怠そうに注文を押し通す。


「かしこまりました、次回からタブレットでのご注文お願いします。焼き鳥のほうが焼き上がりまで少々お時間かかりますがよろしいですか?」


「えー、早くしてよ」

真ん中分けの大学生Bが気怠そうに言う。


(ちっ)


砂肝は厨房まで行き、直接注文を伝える。


閉ざされた焼き場から微かに鷲尾の叫声と控室にいた焼き鳥4人衆の掛け声が聞こえる。


(畜生、盛り上がってやがる。俺もすぐにあそこに立ってやるぜ。)



ピンポーン


先程の大学生の席から呼び鈴が鳴る。


「焼き鳥まだ?遅くない?」

真ん中分けの大学生Cが気怠そうに言う。


「もう少々お待ちください」


「もう1杯目飲み終わったんだけど、つまみの意味ないじゃん」


「焼き鳥は少しお時間がかかるので、こちらにスピードメニューと言うものがありまして」


「高えよ、なんでキュウリに300円も出さなきゃいけねーんだよ」


「申し訳ありません、なるべく早く焼き鳥のほうをお持ちします。」


砂肝は拳を握りしめ厨房に引き返す。


「あいつワンチャン入社したての新卒じゃね?使えね〜」


真ん中分け大学生Cが声を潜めることもなく気怠そうに言った。



数分後、砂肝は焼き上がった焼き鳥盛り合わせを真ん中分けのテーブルに運ぶ。


「大変お待たせしました。」


「やっときたよ」


「あれ?5本だけ?てかこれレバー入ってんじゃん、俺レバー食えないんだけど?」

真ん中分け大学生Cが騒ぐ。


「はぁ・・・一応メニューの方に盛り合わせの内容が書いてあるのですが」


「いや俺レバー食えないから、俺だけ4種類しか食べれないのおかしいじゃん、意味わかんないから、他の串かわりに持ってきてよ」


「焼き上がりまで少々お時間かかりますがよろしいでしょうか?」


「は?どんだけ待たせんだよ、すぐ持ってこいよ」


「では、先にこちらをお召し上がりください」

砂肝の膝が真ん中分け大学生Cの鼻にめり込んだ。


「ぐげっ」

Cの鼻から血が噴き出し、前歯が1本ビールのジョッキに飛び込んだ。



「うわっお前何してんだよ、俺ら客だぞ?」

真ん中分け大学生Aが顔を紅潮させて気怠そうに言う。


砂肝が真ん中分けAの髪を掴んだ。


「クソガキが、同じような顔して同じ髪型にしやがって、3匹ぐらいこの世からいなくなっても誰も気づかねえだろ」


髪を掴んだAの顔面をBの顔面に叩きつける。

Bは鼻血を噴き出して気を失った。


「いやぁぁぁ」

他の席の客が騒ぎに気づいてパニックを起こす。


砂肝は気にせず、すでに動かなくなったCの顔面に百連拳を叩き込む。



「貴様ぁ!何してる!」

騒ぎを聞きつけたオーナー鷲尾が駆けつける。


「お客さまが体調不良みたいです、馬鹿すぎる上にやけに気怠そうにされてて、すぐに3匹とも寝かしつけますんで、まっててくだせえ」


「俺の店を潰す気かぁ!」


鷲尾のロシアンフックが砂肝のこめかみ目掛けて放たれる。


砂肝はスウェーバックで鷲尾のフックをかわすと、仰(の)け反(ぞ)る勢いを利用して鷲尾の頬骨にハイキックを叩き込む。


「引っ込んでろじじいっ!キャラがうるせぇんだよ!」


鷲尾は少しよろけたが効いていない様だ。


「貴様・・・なにが焼き鳥王になるだ、夢を叶えるためならなんでもするんじゃないのか?こんな量産型大学生に腹を立てて初日で夢を捨てるかぁ!?」


「うるせぇ!こんな居酒屋と駅前で大声出すことでしかアイデンティティを保つことができないクソ大学生共に平伏(ひれふ)すくらいなら、焼き鳥王の夢なんざティッシュに包んで便所に流してくれるわ!」



「おいっ、あんたが責任者かよ!どうしてくれんだよ!慰謝料請求するだけじゃ許さないからな!」

比較的軽傷なAが鼻血を拭きながら訴える。


鷲尾のロシアンフックがAのこめかみに直撃した。


「うるせぇ!区別がつかねえから血出す場所くらい差別化しろ!」


Aは頭から血を噴き出して気を失った。



「お前ら!いい加減にしろ!」

社長の鷹井と焼き鳥4人衆が飛んできた。



「来たか鷹井!皮田砂肝は今日限りでクビだ!全員でタコ殴りにするぞ!オーナー命令だ!」


鷹井は鷲尾のアゴにワン・ツーを放つ。

「何やってんだよ!たまに店に出てきたと思ったらとんでもないトラブル起こしやがって!」


鷲尾はよろけるが倒れない。

「鷹井!誰のアゴにワン・ツーを叩き込んだ!?ボンクラだった貴様を拾って育ててやったのは誰だ!?」


鷹井は鷲尾のボディにアッパーを入れる。

「育てたも何も、あんたのキャラと勢いだけの経営で何度も潰れかかった店を立て直したのは俺だろ!チェーン展開したのだって俺が社長になってあんたが現場に出なくなってからだ!そもそも人の上に立つの向いてないんだよあんた!」


「うぐぅ」

とうとう鷲尾は膝をついてうずくまる。

こころなしか銀の瞳が少し潤んでいる。


「今だ!」

砂肝がうずくまる鷲尾の後頭部を踏みつける。


「お前もいい加減にしろ!」

鷹井が砂肝の横っ面に右ストレートを直撃させる。砂肝は口から出血するも返す刀で鷹井の太腿にローキックを叩き込む。

よろけた鷹井の腰を鷲尾が後ろから抱えジャーマンスープレックスを・・・


こうして三つ巴の乱闘は深夜まで続いた。

客は全員逃げ出し、

なんとか焼き鳥4人衆が3人を引き剥がしそれぞれを説得。

その日は解散となり、後日「鳥地獄」幹部会議が行われ、下された辞令は以下の通り。


オーナー、鷲尾豪骨 辞任


社長、鷹井綾 オーナー就任


社員、皮田砂肝 辞職


となった。



被害者の真ん中分け大学生3人には鳥地獄オリジナルグッズを大量に贈呈の上、高額な慰謝料を支払い示談となった。





時は流れ、15年後。


皮田砂肝37歳の春──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。