焼き鳥王になる男
超巨大焼き鳥居酒屋チェーン店
「鳥地獄」面接会場──
「えー、それでは一番右端の方から、簡単に自己紹介お願いします」
面接官から見て右端の小太りメガネの学生が忙しなく立ち上がる。
「は・・・はいっ、山ノ上大学食品科学科から参りましたっ、田村信濃守蕎麦之丞です。出身は千葉県です。大学では、主に食品の加工技術や保存性の向上について研究していました。ほ・・・本日はよろしくお願いいたします」
「次の方お願いします」
「えー・・・ぼくは超京大学管理栄養学科から参りました、大久保小久保です。出身は神奈川です。栄養学部管理栄養学科で、高齢者向けの栄養管理や商品開発を学んでいました。よっよろしくお願いします」
緊迫した空気の中、学生たちの自己紹介は進んでいく。
(どいつもこいつもテンパってやがる。こいつらはたぶん落ちるな。まあ《《あの人》》にあんな形相で睨まれちゃテンパるのも仕方ない。それにしてもこいつら酷い名前だ)
彼らが生まれた頃は、「ブレブレネーム世代」と言われ、キラキラネームが横行した末期の世代。親が子供に付ける名前のネタ切れを起こし、錯乱し、
凝りすぎた名前や、めんどくさくなって適当すぎる名前をつけるという迷走した時代だった。
「次の方お願いします」
4人目の学生の自己紹介が終わり、左端の学生が立ち上がる。
身長は平均的、少しガッシリしている体格につり上がった大きな目に太い眉毛。
艶のある黒髪を整髪料で逆立てている。
「はじめまして。赤軍鶏大学農学部畜産学科から来ました。皮田砂肝です。大学では畜産を専攻しており、この4年で鶏の生態、習性、こだわり、好きな食べ物ランキングに至るまでの全てを知ったと自負してます。焼き鳥サークルを創設し、地区大会で個人戦優勝。おやじが屋台の焼き鳥屋をやっていて、子供の頃からひっついて焼き鳥を焼いていました。たぶんここにいる連中じゃ相手にならないくらいには焼けます。よろしくお願いします」
(なんだよこいつ、赤軍鶏大なんてバカ大学で鳥地獄採用されるわけねえだろ)
(終わったな。面接受ける態度じゃねえよ)
(新卒採用率0.2%だぞ?こんなやつがよくここまでの選考通ったもんだよ)
学生達は皮田砂肝の挑発ともとれる言動に苛立つ。
進行役の面接官の顔が歪む。
「お座りください。えーそれではみなさんがこれまでの学生生活で力を入れてきたことを・・・」
「お前らなにがしてえんだ?」
空気が一気に張り詰める。
「お前らはうちに入って、何がやりてえんだって聞いてんだよ」
3人いる面接官のうち、真ん中に座る男が、ドスの効いた、部屋中に響く重低音で問いかけた。
オールバックに撫でつけた白髪、右目に黒い眼帯、塞がれた片目の眼力分も加算されてるかのようにギラギラと光る銀の瞳。
褐色と呼ぶには黒すぎる、コーラと見紛うような日焼けした肌。
スーツの上からでもわかる隆起した全身の筋肉。
鳥に携わる人間でこの男を知らない者はいない。
超巨大焼き鳥居酒屋チェーン店「鳥地獄」オーナー
鷲尾豪骨である。
一代で鳥地獄を日本一の焼き鳥居酒屋に育て上げた超剛腕経営者だ。
鷲尾の質問に気圧されて、学生達は身動きが取れなくなってしまった。
「田村信濃守蕎麦之丞、お前はどうだ?」
鷲尾に名指しされた田村信濃守蕎麦之丞は飛び跳ねるように立ち上がる。
「は・・・はいっ、僕は大学で学びました食品の知識を十分に活かし、御社に貢献し、ゆくゆくは・・・」
「羽っ!」
鷲尾の喝に吹き飛ばされ、信濃守は椅子ごと後ろにひっくり返った。
「つまんねえんだよ、ここは焼き鳥屋の面接会場だ!焼き鳥の話を聞かせろ!不採用だ、出てけ!」
カエルの死体のようにひっくり返った信濃守は、そのまま動くこともできず、泣き崩れた
「他は!?」
ガタッ
皮田砂肝が立ち上がる。
「お前はなにがしてえんだ?」
「俺は焼き鳥王になります」
鷲尾は砂肝を睨みつける。
「餓鬼、なんだと?」
他の面接官がいつでも止めに入れるように身構える。
砂肝は鷲尾の銀の瞳を真っ直ぐに見て言う。
「この会社に入って焼き鳥王になると言ってるんです、その夢を叶えるためならばなんだってします、なんなら靴でも舐めましょうか?」
(このクソ餓鬼、俺が睨んでも眉一つ動かさねえか)
「どうします?不採用にしますか?それとも鳥地獄から焼き鳥王を輩出しますか?」
ドガンッ
鷲尾は目の前の机を蹴飛ばした。
「採用者は皮田砂肝!明日から本店勤務だ。覚悟しとけ。焦げきるまで焼いてやる。あとのやつは不採用!帰れ!それでも焼き鳥焼きてえなら、焼いて焼いて焼いて!強くなって来年また来い!」
少しの沈黙のあと、学生達と皮田砂肝は退室した。
退室した後、砂肝は全身から汗が噴き出し、膝から崩れ落ちた。
「あのじじい、あの圧、化け物かよ」
「皮田くん?すごいね、君は。僕なんか少し漏らしてしまったようだ」
田村信濃守蕎麦之丞だ。
「ああ、あんたも災難だったな。・・・まあ採用されたはいいが、あんな化け物の下で毎日働くと思うと少し憂鬱だ」
「僕も焼き鳥には少し自信があったんだけど、まるでレベルが違ったみたいだ。君の焼き鳥、必ず食べに行くよ。がんばって」
信濃守は何かが吹っ切れたように、満面の笑顔で去って行った。
「オーナー、まずいですよ、最近は企業の圧迫面接がどうだって騒がれてますし、採用したあの学生だって偏差値の低い赤軍鶏大学ですし、あの態度じゃあ・・・超巨大チェーン店「鳥地獄」の選ばれし正社員としてふさわしくありませんよ。」
「ぼんじりは俺が拭く。お前らに手羽はかけん」
(ふんっ、あの餓鬼、あの猛禽類のような目、この俺が年甲斐もなくワクワクしちまったじゃねえか。焼き方次第でいい焼き目がつく・・・かもな)
「明日から俺も焼き場に入る!お前らも覚悟しておけ!」
──翌日
焼き鳥居酒屋チェーン店「鳥地獄」新宿本店──




