コールドスリーパー
皮田砂肝37歳。
年を取ることはどんな馬鹿でもできる。
がんばろうが、がんばらなかろうが、働いていようが、寝ていようが、借金があろうが、腰が痛かろうが、誰からも忘れられようが、
生きていれば年は取れる。
皮田砂肝は22歳の頃から何一つ成長することなく年を取ったようだ。
毎日同じことをして、同じものを見て同じことを考えてれば精神のみをコールドスリープさせることができる。
いや、退行さえできるのだ。
──鳥地獄乱闘事件は表沙汰にはならなかった。
さすがは大企業。
あの手この手を使ってあの日のことを無かったことにした。
オーナーの鷲尾豪骨は自信喪失して自ら辞任を願い出たらしい。
最後は嘘の眼帯もカラコンも外し、ただの黒いじじいとして涙ながらに挨拶をしたみたいだ。
俺はというと。
就職のため都心に引っ越したものの、
出世することを見越して借りた高級マンションの家賃を払えず、
すぐに地元の東京郊外、垢市に引っ越した。
また就職する気にはなれず、場末の焼き鳥居酒屋絶不鳥でアルバイトを始めた。
なぜまた焼き鳥かって?
確かに焼き鳥はもう懲り懲りだって気分だったが。
焼き鳥以外のことができるわけじゃないし、新しいことを覚えるのも面倒だった。
もちろん焼き鳥王になるなんて二度と言うつもりはない、そもそも焼き鳥王ってなんだよ。
そんなこんなで大して客も入らない焼き鳥居酒屋で15年間バイトしてた、それだけだ。
正社員になれと誘われたこともあるが断った、
大して給料も増えないのにやることが増えるのは嫌だからな。
世の中はとんでもなく変化したが、俺は変わらなかった。
変わったことといえば酒を毎日飲むようになったのとキャバクラに行くようになった、あとはパチンコもやるようになったな。
見た目も少し変わったか。
焼き鳥しか食べてないから、ガッシリしてた体はすっかり痩せて細くなってしまった。
毎日ジェルで逆立てていた髪も、セットするのも切るのも面倒くさくて目が完全に隠れるほどに伸ばしっぱなしだ。
猛禽類のようだと言われた目も、車に轢かれて死んでるカラスのような目だと、この前母親に塩を撒かれながら言われたな。
キャバクラに行くのは月に2回ワンタイムだけ。
今の給料じゃそれが限界だ。
キャバ嬢はみんな酒を飲みたがるが、当然酒は飲ませない。
そんな金はないからな。
前に一度、他の席でたらふく飲まされたのか、泥酔したキャバ嬢が俺の席に着いたことがあった。
その時、そいつは俺のことを「ブレイク」と呼んだ。
どういう意味かと聞いてみると、酔った勢いでそのキャバ嬢は話してくれた。
俺はキャバ嬢が話しかけても何も喋らず、ちびちび酒を飲んでるだけだから、その店のキャバ嬢達は俺の席に着くのを休憩時間として、酔いを冷ましたり、瞑想して脳を休ませたりする時間にしているようだ。故に「ブレイク」らしい。
まあキャバ嬢達からは人気あるみたいだし、
コードネームみたいなのもカッコイイから悪い気はしなかった。
なんでキャバクラに行って喋らないかって?
別にそのへんのおっさんみたいに必死こいて喋らなくても、俺はモテないわけではないからな。
昔から顔は悪くないって言われるし。料理もできるしな。
何人かのキャバ嬢からよくLINEも送られてくるし。店に出勤する日は俺に会いたくなるらしいんだ。
それ以外の日は家で動画を見ながら缶チューハイを飲んでるよ。
主に心霊動画やアニメだな。
誰かと一緒に飲みにいくってことはないな。
昔の友達はだいたい結婚してるし。
たまに集まってるみたいだけど俺は誘われたことないな。
昔はリーダー的ポジションで、ちょっと威圧的なとこもあったから誘い辛いのかもな。
バイト先の連中はよく連れ立って飲みに行ってるみたいだけど、
俺はちょっと怖がられてるのかもな、誘われたことないから。
まぁ20歳近く年下の奴らと飲んでも面白くないしな。
今の目標?
特にないな。
ああ、そうだ、来週よく行くパチンコ屋の特定日だったわ。
休み取ったから、早くから並んで、絶対勝ちたいね。
そうすれば今月もう1日キャバクラにいけるかもしれないからな。




