ヒロイン登場…?
肩までの白金の髪を揺らし、翡翠の瞳はまっすぐに父と弟に向いている。
その色味も顔立ちも、似通っているのは一目瞭然だった。
「突然お邪魔してすみません! でもあの、これ、大事な物なんじゃないかって思って!」
白く華奢な手の中には、古びたシグネットリング。
ざわりと空気が大きく揺れ、彼女の見目と家紋の証に、誰もが息を呑む。
「赤ちゃんの時、わたしが握ってたみたいで。返すのが遅くなってごめんなさい!」
そっと、イヴェットはフランソワの腕を離した。訝しげにされた気もするが、気のせいだろう。
一歩後ろに下がろうとしたところで、父が口を開く。
「その鼠を拘束しろ。我が公爵家に侵入するなど、野盗でもするまい」
「えっ」
思わず声を上げたイヴェットに、父が怪訝な瞳を向けた。
なぜそんな顔をされるのか。というより。
「あの……彼女のお話を、もう少し聞いて差し上げては」
見目が似ていないことなど、イヴェットは重々承知している。幼い頃はよく揶揄もあった。
そして、今、いかにも血縁者なヒロインが現れたのだ。拘束するなんて展開は知らない。
「姉上、いくらあなたがお優しくとも、闖入者まで気にかける必要はありませんよ」
「その通りですな。公爵、よろしければ聴取は私めが」
「ああ。頼もう」
弟、侯爵、父が口々に言う中、イヴェットはひたすら目を白黒させた。
ええと、これは何? どうなっているの。どういうこと。
混乱するイヴェットの前で、さっさと書面に意識を戻した父が、するっと手袋を外す。
再び、場がざわつく。父の左の小指には、シグネットリング。
たくさんの視線が見守る中、父は躊躇いなく印を押した。
最重要書類などにしか使われない、当主たる証。
────そう。そうなの。
確かに、父の持つシグネットリングとは、当主たる者を証明するものだ。
日常的に身につけるものでも、まして赤子に触れさせるものでもない。
正式にその座を譲り受けるまで、後継ですら保管場所を知らされないほど重要な。
「では、あれは……?」
他にシグネットリングを持つ者など、思い当たる節はない。
でも、ヒロインは確かに古びたシグネットリングを持っていた。
「聴取が終わればわかるだろう。いずれにせよ、当主のシグネットリングではないな」
王太子が調印したのを確認して、書類を預けながら父がさらりと言う。
婚約の書類は、王宮にて保管される。すでに認可されたため、イヴェットとフランソワの婚約は成立した。
成立、してしまった。ヒロイン、登場したのに。




