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取り替えられた令嬢は終わりを待つ  作者: 雨傘 はる


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4/8

幸せをただ願うだけ


イヴェットの家族は、父と一つ下の弟。父に似て少し愛想はないが、とても賢い弟だ。

確か、ゲームでは人気者のヒロインに嫉妬して、意地悪をするような子だった。それもまたいじらしくて、可愛がられる役どころだ。


「姉上」


「あら、どうなさったの」


思春期で、すっかり距離を置かれていたのに、話しかけてくるとは珍しい。

思わず笑みを深めて迎えると、彼はむつりと不機嫌そうに唇を結んだ。


「……なぜ、三ヶ月なんですか」


「まあ、何の話です?」


「婚約です。どうして、誕生日を待つのですか。たった三ヶ月なのに」


思わず、イヴェットは首を傾げた。


イヴェットは、たとえ婚約してもすぐに家を出られるわけではない。

けれど、公爵家の後継はすでに彼と決まっていて、地位を脅かすことは今も先にもないと思うのだけれど。


「早く決めた方がよかったでしょうか。ごめんなさい、あなたの立場をどうこうしようとは思っていないのですよ」


「そんなこと心配してません」


おや、違ったのか。思春期の男の子は難しい。

さらに首を傾げつつ、心当たりを探る。その間に、弟は許可なく部屋に足を踏み入れた。

姉だからいいけれども、他の女性にはしてはいけませんよ。


「姉上は、なぜいつもそうなのですか。そうやって本音を隠して、僕たちから離れようとして」


まあ、本当に何の話かしら。イヴェットは困って眉尻を下げた。

年頃になって距離を取っていたのは、彼の方ではなかっただろうか。


「父上も心配していましたよ。理由もなくそう言い出すわけはないから、おまえは何か知っているかって聞かれました」


「ごめんなさい、手間をかけましたね」


「ああもう、そうじゃないんです! 理由です、理由を教えてください。そしたら、僕も父上も安心します」


どこか切羽詰まったように言い募る弟の翡翠の瞳が、あんまりにも綺麗で可愛らしくて、イヴェットはつい笑みをこぼした。


こんなにまっすぐ目を見て話すのは、幼い頃以来ではないだろうか。

たった一つしか違わない姉弟で、しかもイヴェットがあまりに悟りきった子供だったものだから、彼はいつも張り合っては少し離れた場所にいた。


「……なんですか、何を笑っているんですか」


「ふふ、ごめんなさい。あなたはいつも愛らしい。愛おしいなと思ったのです」


「は!? また、そうやって誤魔化して!」


「まあ。本当に可愛らしいと思っていますよ。……ずいぶん、大きくなりましたね。あっという間でした」


たった五年前までは、イヴェットの方が背も高かったのに、今では背伸びをしても届かない。

母は、二人が物心つく前に亡くなった。きっと今の弟を見たら喜ぶだろうと、ふと思ったりする。


「……幸せになってくださいね」


「なんですか、それ……姉上こそ、婚約して幸せになればいい」


「そうですね」


素直に頷いたのに、弟は納得できないとばかりに眉間の皺を深くする。

イヴェットにできるのは、遠い未来の望みをほんの少し口にする程度。隣で見守ることは、できないから。


「あなた方が幸福であることが、わたくしの願いです」


父とも弟とも、決して呼べないけれど。彼らの幸せだけを願い、イヴェットはここにいる。

逃げ出さず、追い出されるために。


怖気に包まれた身体に小さく熱が灯るほど、イヴェットは強く深く願った。




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