1395話
ドゥヌーブが現れると、現場の雰囲気が変わる。
それまで遠巻きにしていた荒くれ者達が皆、手にそれぞれ武器を持ってリリーナの前に立つ。
さっきまでとは違い、目に力がある。
何かしら士気を高めるような力でも持っているのか?と、リリーナは警戒するが、荒くれ者達の様子を見る限り、そうではないようだ。
武器を持って必死に自身を鼓舞しているようだが、その目の奥には恐れの光が見える。
問題なのは、その光の行き先がリリーナなのか、それともドゥヌーブと名乗る女性なのかという所だ。
「お前達、その女は高値で売れるんだからね。殺すなんて事しないように。殺したヤツはワタクシが一族皆殺しにするわよ」
「「「おおう!!」」」
埠頭に広がる大声に『なるほど、恐怖心で煽るか』と、リリーナは少しだけ感心してしまう。
彼らのような『力こそ正義』とでも言いたそうな連中であれば、その力以上を見せつけてやれば良い。
このドゥヌーブと名乗る女性の場合、組織的な力がそうなのだろうと予測する。
まあ、だからといって負ける気などしないのだが⋯⋯⋯。
「警告する。私の仲間達を返しなさい。さもなくばこの港町、廃虚にしますよ?」
「お前は何を言っているの?警告するのはワタクシの方。お前はそこに跪いて許しを乞うべき存在。まあ、お前など許さないけど」
そう言うとドゥヌーブは、ツイッと顎を反らしつつ、見下すような目線を向ける。
その視線を受けたリリーナは、ただ一つ大きなため息を吐いて肩を竦める。
互いに『話すだけ無駄』だと感じ取りつつ、目線が交差する。
場の緊張感が高まる中、港町内に警鐘が鳴り響く。
「み、未確認船が一隻、突っ込んで来る!!」
大声で叫ぶ見張りの声に、リリーナ以外の者達の目が海上へと向かう。
そこには、リリーナの乗ってきた船と胴型船が、悠々と港へと突っ込んでくる姿があった。
「間もなく目的地です」
「おう。先遣隊からの合図は?」
「ありません」
見張り台から港町の様子を伺っていた獣人からの声に、エルザは軽く首を振る。
『あぁ、やっぱり人間達は拒絶したか』とそう思いつつ、右手を上に伸ばす。
「エニアグラン、指示した通り暴れ回れ。ただし、逃げるような連中と一般市民と思われる連中は殺すな」
「⋯⋯⋯立ち向かっデ来るような連中バ?」
「ふん、好きにしな」
エルザは心底つまらなそうな顔をしつつ、船先に立っていたエニアグランにそう声を掛ければ、狼の顔がグニャリと笑みを浮かべる。
その笑みを見た周囲の獣人戦士達は、顔を引き攣らせながら一歩下がる。
エニアグランの身体から滲み出す殺気に、つい本能が押し出されてしまったのだろ。
若い個体と思われる犬の獣人など、腰から出ていた尻尾を股の間に挟み込んでいる程だった。
歯を食いしばる者達、手に持つ武器に力を入れて踏ん張る者達など、船上でも様々な様子だ。
そんな彼らを見たエルザは、両拳を目の前で『ゴンッ』と音が鳴り響く程の力で合わせると、エニアグランに負けない程の獰猛な笑みを浮かべる。
「さあ上陸したら大暴れだ!!さっさと仲間達を助け出してトンズラするよ!!遅れたヤツは置いてくから泳いで帰ってきな、いいな」
ニヤリと笑みを浮かべたエルザの言葉に、甲板上の獣人戦士達が「おう!!」っと叫び声を上げる。
ここに、都市国家同盟の北東港町オズディア戦が勃発するのだった。




