1394話
数分の睨み合いの中、やって来たのは何やら全身をギラギラとした宝石で飾り付けた女性だった。
紫色の髪の毛を振り乱しつつも、キツそうな目でリリーナを睨みつける。
「ワタクシの町で騒ぎを起こしているのはお前なのかしら?」
突然の上から目線の発言に、リリーナのグレーの目がスッと細められる。
ユウキがこの現場を見ていれば、『ヘビとマングース』⋯⋯⋯に見せかけた『ヘビとネズミ』の姿が見えた事だろう。
そのネズミは、必死に牙を剥きながらキーキーと叫んでいるのだが、肝心のヘビが『何だコイツ?』とやや困惑気味にしている所だろう。
勿論、冷静に得物を見続けるのヘビがリリーナで、キーキーと騒ぎながら必死に威嚇してくるのがこの人間族の女性だ。
「聞いてるの?そこの気味の悪い羽を生やした女!!」
「ドゥヌーブ様!!」
キンキンと頭に響くような高い声で騒ぐ人間族の女商人ドゥヌーブは、腰に手を当てて大きな胸を逸らしながら、リリーナに向けて人差し指を向ける。
周囲を護る護衛達の声がやけに大きく聞こえる。
「貴女がこの者達の主?」
「ワタクシが質問しているのよ、お前はさっさと答えなさい」
リリーナの質問に対し、答える必要は無いという態度で返す。
実際、ドゥヌーブとしてはこの謎の女に恐怖心といったモノは持っていない。
その根底にあるのは、都市国家同盟内での自分の立ち位置が大きい。
商人としてのランクで言うなら、精々中の上がいい所なのだが、本人は上位に数えられてもおかしくはないと自負していた。
更に彼女の背後、寄親ともいうべき人物が、この都市国家同盟内でも五番目の勢力図を持つアントニウスだ。
当然、自分もその勢力の一派であり、誰も逆らう事など出来ないと思っていた。
バレシオスやゼノンのような上位者は他にいるものの、彼らはそれ程勢力争いに力を入れるような事はしない。
寧ろ、面倒事には関わらないといった精神でいる。
そういう意味では、どんな手を使ってでも上へと上がろうとする野心家のアントニウスは、とても魅力的な商人に見えているのだろう。
この港町オズディアは、そんなアントニウスを支持する商人が数多く集まる地でもある。
主な取引き商品は人間であり、何処よりも規模がデカい。
大きな販売所が一つに中規模が四つ、数人規模の小さな市場まで合わせれば十以上はあるかもしれない。
更に、裏では薬物の取引きも頻繁に行っており、一日に出る売り上げで見れば、確かに上位クラスの市場都市と言えた。
その商品の殆どが、都市国家同盟内でも非合法な品物ばかりだとしても。
本来であれば内部査察の一つでも入りそうなものだが、この港町オズディアは上位の商人アントニウスの傘下の町。
彼の圧力により、そういった行動は尽く邪魔されてきた。
また、場合によってはアントニウスの息のかかった者達によって、適当な査察が行われる。
結果、何ら問題が無いと報告が上がる訳だ。
人としての尊厳すら商品にする町、それがこの港町オズディアの正体となる。
その港町オズディアの長が、自ら女帝を名乗るドゥヌーブだ。




