1390話
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手元の書簡を握り締めつつ、長椅子の上で片手を額に当てて唸っているのは、南方の都市国家同盟のナンバー2的存在、大商人ゼノンだ。
彼は今、バレシオスから送られてきたばかりの書簡を読み終え、その内容から凄まじい頭痛に悩まされていた。
見た目は商人というより立派な戦士といった感じのゼノンだが、商人としての能力は高い。
元々異国からの移住者でありながらも、父が必死に頑張った事で、都市国家同盟内での不動の地位を得ていた。
そんな彼に、幼い頃からの親友でもあるバレシオスから、特大の爆弾が送られてきた。
曰く、『浮遊大陸の住民を都市国家同盟の関係者が拉致した』というモノだ。
コレがどういう事かと言うと、バレシオスから聞いた情報通りであれば『凄まじい火力を持った得体の知れない連中の怒りを買った』と言う訳だ。
そして、その火力が向かう先は、我らが都市国家同盟となる。
せめて、関係の無い一般人などに被害が及ばないようにとバレシオスが動き出したが、今一歩遅かったかもしれないと、書簡には書かれていた。
少なくとも二十日以上前にそこそこの数の異世界人を攫ったらしく、下手をすると既に売買されている可能性すらあるそうだ。
この都市国家同盟は、無数の商人達による合議制の国だ。
当然、商人としてのルールがある。
今回、特に問題となる事、それは『どんな形であれ、売買が成立したモノは、例え違法な品物であっても口出ししてはならない』という不文律だ。
これは、商人の集まりである国家内において、絶対に守らなければならない裏の法でもある。
しっかりと明文化されている訳では無いものの、商人である以上はどうしても守る必要がある。
実際、過去に上位の商人が下位の商人にクレームを付け、商品を奪い去るような手法があったらしい。
そういった自分の立場を利用したやり方を防ぐ為に、たとえ人道的には見逃せない商品であっても、その当事者が購入してしまえば不問とする空気が漂ってしまうようになった。
まあ、この不文律を悪用した商売も数多く、その一つが人身売買となる。
当然ながら、浮遊大陸の人を売り捌いた場合、交渉が成立してしまえば例えバレシオスであっても手出しは出来ない。
成立後に無理矢理手出しでもしようものなら、バレシオスにも被害が出てしまう。
バレシオスとて都市国家同盟の一商人、そういった探られたくないような品物の取引も、それなりにしていたりする。
清廉潔白などという絵空事など、この都市国家同盟では通用しないのだ。
そのバレシオスが焦って動く理由。
異世界人である浮遊大陸の住民を売ろうとしているのは、無も知らぬ下位の商人。
だが、その下位の商人が売ろうと企んでいる相手が問題だ。
バレシオスをどうにか引きずり下ろそうと企んでいる大商人アントニウス。
彼の元に渡れば、そこから独自の人身売買ルートを使い、高値で売り裁かれる事となるだろう。
そんな事になればどうなるか⋯⋯⋯考えたくもない話だ。
大きなため息を吐くと、背もたれにその大きな身体をグッタリと預ける。
やけに大きな軋み音が室内に響くのだった。




