1389話
この百年掛けてヒルデガルドが調べた結果、浮遊大陸の外縁部が長い時間をかけてこのメガラニア大陸のアチラコチラに落下している痕跡が見つかっているらしい。
その内のひとつ、そこそこに巨大な大地が南東の海のど真ん中に落ち、小さな島を形作ったそうだ。
ヒルデガルドはその島に住み着き、ラガシュシュと同じように浮遊大陸へ戻る為の研究を今までやっていた。
まあ、その研究が実る前に浮遊大陸へと戻ってこれた訳だが⋯⋯⋯。
「悔しくはありません、ええホント、悔しいなんて思っていませんよ」
「そ、そうだね、うん」
悔しかったんだ、そんなに言う程に⋯⋯⋯可哀想。
ちょっと同情してしまって、お小遣いでもあげようかと思ってしまうよ。
可哀想なモノを見る目をしていたせいか、脇腹にヒルデガルドのパンチが刺さったケド、残念ながら効かな〜い。
⋯⋯⋯嘘です、能力値で比較すると、ヒルデガルドの力の値は八百程度、ユウキの体力兼防御力は百ちょっと⋯⋯⋯約八倍のパンチは軽めでも痛かったです。
「落下してきた異物を調べ、いろんな品物を回収したりと、この百年間はそれなりに大変だった。まあ、そんな作業もここ四十年発生していないけど」
「四十年?」
「そう。それまでは、早ければ十年以内、長くても二十年に一回は何かが落ちて来ていたの」
ヒルデガルドの話では、浮遊大陸からの落下物と思われる物は、定期的に振り注いでいたらしい。
とはいえ、範囲がかなり広過ぎて、その全てを回って回収とはいかなかったらしい。
「大海原のど真ん中に落ちたってのが一番多いの」
「そうなの?」
この落下物の殆どが、どうやらこの南方の海に落ちていったそうだ。
この辺りは、周辺の海域に住む住人に聞き取りしたりして、それらしき場所の特定をしたらしい。
さすがに深海まで落ちた破片等は回収出来ず、放置する事となったんだとか。
その代わり、南方の砂漠地帯には十数個の落下物跡があるそうだ。
ただ、その落下物がここ四十年間、ずっと止まっていたとの事。
ヒルデガルドが遠出して、出来る限り調べ尽くしたが、それらしい話は一切聞かなかったらしい。
「だから、もう浮遊大陸はバラバラになって、何処か遠い海に沈んだと思っていたの。だから、ここ最近は向こうに渡る研究もおざなりになってて⋯⋯⋯」
そう言いながら、目の前に出された紅茶をグイッと飲み干すヒルデガルド。
その声色は、少し淋しげに聞こえたけど、多分気のせいとかではないと思う、うん。
「本当は、もう向こうの世界にも、浮遊大陸にも戻れないと思っていた。でも、この娘が噂話を聞いてきたお陰で、再びこの地にやってこれたわ」
そう言って上げた顔は、とても嬉しそうな表情をしていた。
大きな目でユウキをジッと見ている。
「え〜っと、そうなんだ」
「それだけ?」
「えっ?」
「それだけって聞いてるの」
「えぇっ?!」
作った時とは違い、大人の女性になったヒルデガルドの鋭い視線に、何とも言えない迫力を感じる。
これはアレだ、間違った回答は万死に値しそうなヤツ。
「私、百年目にして帰ってこれたのよ。言うべき事があるんじゃないの?」
「あ〜」
そう言われて、何と言ってほしいのか分かった。
分かったケド、間違ってたら怖いので、恐る恐る伝える。
「お帰り?」
「何で疑問形?まあいいわ。ただいま帰ったわ」
ヒルデガルドは少し不満げに、それでいて目元は嬉しそうに見える笑顔で答えてくれる。
どうやら間違ってはいなかったらしい、良かった。




