86.「霧切り ――獣人探索+⑥――」
「ファルちゃんはどうするんすか?」
バイクの後部座席からドナが話しかけてくる。
その質問にミズハは前を向いたまま答えた。
「連れて行けるわけないだろ。辞典の力は惜しいがファルちゃんの安全には代えられない」
一週間降り続いた雨の痕跡が道路のいたるところに残っている。
おそらく目的地であるいざないの森内部はかつて訪れた時以上に足元が最悪な状況になっているのだろう。
動物を凶暴化させるという霧の影響もある。
そんな場所に大切な彼女を連れては行けなかった。
「ヤバイな」
入り口に到着してみるとその惨状は想像以上のものだった。
進入禁止の柵や立て看板は跡形もなく吹き飛び、十メートル以上もある大木が大量になぎ倒されている。
濃い霧も立ち込めていて視界も悪い。
「とにかくまずはロープの設置だ」
ドナに指示を出すべく振り向くが、そこに新人ハンターの姿はなかった。
いつのまにか隣りにきていた彼女は辺りを見渡しながら靴が汚れるのもお構いなしに歩き続ける。
「凄いっすねこの森。ちょっと見てきます」
「見てきますじゃねーよ。依頼済ませたら俺のバイクで先に帰る約束だろうが」
その歩みを引き止めるべく、肩を掴もうと手を伸ばす。
しかしドナはその手を払い除けて先に進む。
「おいお前!」
ミズハの制止の声は聞こえているはず。
それでもドナは前を見続けたまま足を止めようとしない。
「すんません。呼ばれた気がするんでちょっくら行ってきます」




