74.「困るだろ ――暴走ハンターを取り押さえよ⑭――」
「私この本が外れなくても困らないかも」
ファルの何気ない一言は、どうにか辞典を取り外そうと悩むミズハをびっくりさせるものだった。
「何言ってんだファルちゃん。そんな得体のしれない物、早く剥がした方がいいよ」
「でも外し方分からないし。それにこの本いろんなことが書いてあって面白いし!」
辞典を見るファルの目が輝いているような気がする。
ここでミズハは親心を発揮する。
「そりゃ今は面白いかもしれないけど、何日も一緒に生活してたら不便なことのほうが大きくなってくるんだよ。そのままじゃお風呂にも入れないよ」
「あ、それは大丈夫なの」
「何が?」と問うミズハ。
「外から帰ったときにね、うっかり手を洗おうとしちゃったの。でも水につけても全然ぬれなかったんだよ」
「うっかり手を洗おうとって。よく蛇口でつまずかなかったね」
ちなみにここまで説明がないけど、辞典は接着剤のように一か所にくっついているわけではない。
手の範囲内から離れないだけでたとえば左手から右手に持ち替えたりはできる。
もちろん読むときは両手で開くこともできるのだ。
「水問題が解決したって不便なことには変わりないよ。せっかく買ってきたケーキだって片手じゃ食べにくいでしょ」
ミズハはそう言って、背後に隠していたケーキの入った白い箱を机に置いた。
これにもファルは動じない。
それどころか、「じゃあお兄ちゃんが食べさせてよ」と言い返してくる始末。
「つかなんでケーキなんて買ってきてんすか?」
むしろまったく関係ないドナがケーキに食いついてきやがった。




