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60.アップデート
「まずはここから出るよ」
ミズハが差し出した右手に手を重ねてファルが立ち上がった。
とにかくこんな今にも崩れてしまいそうなマンションからはさっさと退避しなくては。
足元に注意しながら、彼女の手を引いて来た道を戻っていく。
ファルが顔を覗き込みながら聞いてきた。
「どうしてここがわかったの?」
ミズハは得意気な顔をして言った。
「この辞典の持ち主がファルちゃんだったからさ」
「どうして私だってわかったの?」
「今日の日付が書き足されたからさ」
異常が現れたミズハの部屋の壁に最初に描かれた四文字の数字『1011』。
今日は十月十一日。
あれはただの日報ではなく、二人にとって特別な日を示す情報であることに気付いたからだ。
「お誕生日おめでとうファルちゃん」
その一言でようやくファルに笑顔が戻った。
フィッツシャーから帰ってきて最初の、とびっきりの笑顔だった。




