57/109
57.ディクショナリー
さらさらと壁に付け加えられていく文字の羅列。
よく見ると部屋の壁が紙のようにペラペラしたものになっていることに気付く。
そして書き足された四文字の数字がもたらす情報が、ミズハが知っている内容だったことにも。
泥棒の手から奪い返し、ギルドを説得してまで手に入れたあの辞典に書かれていた情報。
それは持ち主のプロフィール。
手に張り付いた本書を引き剥がすために試しに開いたあの時、辞典を手にしたミズハ自身の詳細が事細かに記された辞典が完成していたのだ。
身長体重本名はもちろんのこと、好き嫌いや過去の記憶、今までに食べたパンの枚数まで。
ミズハでなくとも誰もが欲しがるだろう。
そして彼は次にこう思ったのだ。
「この辞典を獣の少女の手に張り付けよう」と。
ベッドから飛び起きたミズハの手にはすでに辞典が無い。
「持っていっちゃったのか。それとも…」
変わり果てた室内を見渡しながら、もう一つの可能性を予感せずにはいられなかった。
壁だけでなく天井や床までもが紙のようになってしまっている。
廊下がうねうねと曲がりくねって歩いて玄関まで辿り着けそうも無い。
「それとも…、これが辞典の真の力なのか」
とにかく状況把握が第一だ。
床に転がるチェーンワイヤーを装着すると、ひとまず窓からの脱出を試みた。




