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53.「横領 ――賞金首『辞典泥棒』捕縛⑤――」
「この辞典を俺にください」
いきさつを話し終えた時点でそう切り出したミズハに、責任者は首を横に振る。
「ダメに決まってるだろう」
「そこをなんとか」
「持ち主に返さなきゃダメなの。大体そんな邪魔になる本もらってどうすんの?」
話しは、ミズハの手に辞典が引っ付いた頃にさかのぼる。
引っ張ったり叩いたり、ぶつけたり銃で脅したりしてみても外れる様子はない。
そこで、その辞典自体に治す方法が書かれていないかを調べるためページをめくってみたら驚いた。
その辞典はまさにミズハが欲しがっていた本だったのだ。
「泥棒に掛けられていた懸賞金なら要りません。辞典は泥棒の手によって処分された後だったって言えばいいでしょ?」
ワイロを使って買収しようとするミズハ。
「いいでしょ? じゃないよ。悪事の片棒を担がせる気か。私はもうすぐ定年なんだぞ」
涙目で訴えてくる相手にミズハも食い下がる。
「この辞典だって俺から離れてくれないし、このままずっと外れなかったらお互いに面倒でしょう。俺も早くウェールズに帰らないと、子供がお腹を空かせて待ってるんです」
ついに嘘まで交えて懐柔に乗り出す。
「キミ独身って聞いてるけど」
ヤマトに連絡した時にそういう話が出たのだろう、嘘はすぐに見破られてしまった。




