37.「懐刀 ――マウントブック一家の護衛⑪――」
「この野郎!」
自らの足に喰らいついている蛇をにらみ返しながらミズハはそう思った。
互いの血の匂いが漂う水中。
大蛇は余計な動きを見せずに下降を続ける。
「焦らなくても水中では人間のほうが先に力尽きるってか。この大蛇はそのことを知ってやがるのか」
これだけ大きい生き物ならば相当の知能を有しているのかもしれない。
それとも種全体の長い歴史の中で培ってきた生存本能なのかもしれない。
「臆病者のヘビが。なめんじゃねぇ!」
だからと言って、このままおとなしく食べられてやるほどミズハはお人好しでは無い。
物凄い力で足を引っ張られ、酸素も絶たれた極限状態の中。
ミズハは水面に顔を出そうとするどころか逆に更なる湖底へと目を向ける。
その手には水に濡らすまいと放り投げたはずの一対の銃の片方が握られている。
引きずり込まれる寸前に抜け目なく手中に収めていたのだ。
ビニールに包まれている今なら一発だけ撃つことが出来る!
「放しやがれ!」
銃弾は軌跡を描いて水の中を進んでいく。
大蛇の左目に命中すると再び血液が浮かび、足に噛み付いていた蛇の牙から解放された。
ミズハの危機を救ったピストルは、放たれた弾丸によってビニールを突き破り最早使い物にならない。
大蛇に背を向けて両手両足を懸命に動かして体を浮上させていく。
酸素や光はもう目の前だ。
ミズハの口元に自然と笑みが浮かぶ。
「無事に帰ってくるよね?」
何故だろうか。
別れ際のファルの言葉が、あの時の情景と一緒に脳裏をよぎった。
その理由はすぐに理解できた。
水中を素早く泳いで背後へと回ったその鋭い牙が、今度はミズハの首筋を直撃したのだ。
30分アニメを想定した構成作りの話を覚えているでしょうか?
このあたりで大体第二話終わり、第三話に続くって感じです。




