36.「巨躯 ――マウントブック一家の護衛⑩――」
飛び込んだ湖の奥で目にしたのは、信じられないサイズの蛇が締め上げた人間を頭から飲み込もうとしている光景だった。
その生き物の横幅はミズハが両腕を回しても手が届くかわからない。
全長に至っては視界の悪さも相まって掴めない。
彼自身の目測の弱さもあるが、少なく見ても十メートルはあると思われる。
その大蛇に今まさに生きたまま丸飲みされようとしている男を助けるべく、ミズハは背中に忍ばせたサバイバルナイフを鞘から引き抜く。
そのままズブリと大蛇の体に突き立てる。
水中に浮かび上がる黒味掛かった血。
そんなことはお構いなしにナイフを動かしていくと、やがて男を締め付ける呪縛が弱まっていく。
引きずり込まれた男と一緒に水面から顔を出すミズハ。
その耳には真っ先に野郎どもの野太い歓声が飛び込んできた。
「うおおおおおおぉっ!」
「すげえな兄ちゃん!」
「カツオ! 生きてるか!?」
ちなみにカツオとは大蛇に引きずり込まれた男の名前のようだ。
暴れた際にだいぶ水を飲み込んだ様子だったが…。
「すぐに水を吐かせて安静に。それからここは危険だ。すぐに引き返…!」
道路にいる野郎どもにカツオを引き渡し、よいしょと陸地に上がろうとするミズハの右足に嫌な感触が伝わった。
その瞬間に彼は再び湖の底へ連れ戻される。
水中を潜る最中、鋭い牙を立てて右足に喰らい付いている手負いの大蛇と目が合った。




