34.「不運 ――マウントブック一家の護衛⑧――」
マウントブック一家をあまり待たせるわけにはいかない。
最低限の身支度を済ませに帰り、またすぐに家を出る。
バイクに荷物を詰め込んでいると背後から聞き親しんだ彼女の声が聞こえてきた。
「お兄ちゃんまた出かけるの!?」
振り向いた先にいたファルの両手にはいつもの手提げかばんが握られていた。
きっとあの中にはいつものようにノートや文房具が入っていて、夕ご飯を食べてすぐに準備してミズハに勉強を教わりに来たのだろう。
ミズハが謝る。
「ごめんね。これからすぐ出かけなきゃならないんだ」
「何時ごろ帰ってくるの?」
ミズハはまた謝る。
「ごめんね。今度は、一週間くらい帰ってこれないかもしれない」
視線をそらす彼の手荷物の中にある銃のパーツを見つけると、ファルは出掛かったそのセリフを出さずに飲み込んだ。
代わりにこう言った。
「無事に帰ってくるよね?」と。
「当たり前に決まってるだろ。お土産買ってくるから良い子にしてるんだぞ」
こんなやり取りはこれでもう何回目になるのだろう。
生暖かい夜風を浴びながら、ミズハは彼女が言い掛けて飲み込んだ言葉が気になっていた。
銃を見ると、ファルは必ず嫌な顔をする。
やがて出発の荷造りをしているマウントブック一家と合流し、その考えは一時頭の片隅に追いやられることとなる。
ミズハが護衛の任に就くトラックは夜道を突き進み問題の湖に到着。
そのまま速度を緩めることなく水に浸かった石畳の道をひた走る。
そして見事に立ち往生してしまった…。




