22.「ワイヤーアクション ――誘いの森の業者救出⑪――」
「ナマエ?」
ミズハの質問に、獣の少女がはじめて言葉で返事をした台詞がこれだった。
言葉こそ通じてはいたがようやく会話が成立したようにミズハには思えたのだった。
「俺はミズハ。君は?」
「そんなのない」
そんな言葉が微かに聞こえた気がした。
暗闇に浮かび上がっていた両目が消え、足音がどんどん小さくなっていくのが感じ取れる。
静かな森の高台に一人残されたミズハはすっかり彼女を気に入ってしまった。
「面白い子だな。見たことないタイプだ」
ハンターとしてなのか。
それとも人間としてなのか。
今はまだ自分でも分からないが、また会いたい(遭いたい?)と彼は思っている。
「よし。行くか」
先ほど見えた光の点滅は見えなくなっているが、方角は分かった。
ミズハは高台を飛び降りて先へ進む。
下からの冷たい突風を全身に受けていると、やがて対岸が見えてきた。
落下中に薬指でトリガーを引きワイヤーを伸ばして鉤爪を掛け、そのまま振り子運動で宙を横移動。
今度は薬指と小指のトリガーを同時引き。
ワイヤーの巻取りと鉤爪の回収が同時に行なわれると、そのまま斜面に着地して斜め移動。
下り坂を滑走するミズハは心も体も軽くなっているのを感じた。
助けるべき人間の生存率が極めて高い状況への希望。
そして再会を諦めたくない獣の少女への野望が、彼の体を突き動かしていた。




