29番地 海と果実と余り物
ご無沙汰しております。
もう10月ですが物語の夏はもうしばらく続きます。
「海だー!!」
「しっかし誰もいねぇな……」
「こっちに海岸で遊ぶ文化はない……そして暑い」
——というわけで、俺達はリュンヌ王国の、セゾニエ村から少し離れた港町にある浜辺に来ていた。
「いやぁ、ロドリグも来てくれて助かったよ。流石にこれだけの荷物を小鹿君に負担させるのは酷だからねぇ」
「丁度手も空いていたので、この程度ならば喜んで。して、今更ながらタツヤ殿は随分と髪が伸びたようだが?」
「あ、これ大師匠様の薬の副作用っスね。小鹿もバッサリいかずにもうちょい遊んでもよかったんじゃねえの?」
「夏に伸ばしても暑いだけだろ……ヘアドネーションするほど伸びるとは思わなかったし」
「ヘアドネーション……成程、髪の寄付か。無駄に捨てず誰かの役に立てるという発想、実に感服した。タツヤ殿のポニーテールも、いざとなれば敵に掴まれる隙となりかねん故、折を見て切ることを勧めるぞ」
「いやオレ別に戦場とか行かないんで! っていうかロドリグさん、その大荷物持ってびくともしないの凄すぎません!?」
「なに、普段運んでいる鉱石に比べれば、この程度の荷など大したものではない」
「……本物の筋肉って怖ぇな」
ロドリグさんの筋力のおかげで、日除けのパラソルやクーラーボックスはあっという間に砂浜へ設営された。これで拠点の確保は完了だ。
「よし、それじゃあさっさと着替えるとするか」
男女に分かれ、水着に着替える。更衣室はないので、シルヴィが展開した結界を代わりとする。
持ってきた水着は、俺がシンプルなネイビーの……まあ、普通のサーフパンツ。牛込が派手な赤にヤシの木があしらわれた、陽気な柄物サーフパンツ。そしてロドリグさんが、皮装飾のついた、ワイルドなショート丈の海パン——と三者三様だった。
男性陣の着替えが終わると、周りを取り囲んでいた結界が消える。女性陣の方もそれから数分遅れて消えた。そこへ顕になったシルヴィの姿を見て、俺と牛込は思わず言葉を失った。
普段着ているダボッとしたローブやTシャツの印象が強かったのだが……目の前に立っているのは、深みのあるワインレッドの水着に身を包んだ、驚くほどスタイルの良い美女だった。
「おや、やはり男性陣は速いねぇ」
「……大師匠様って着痩せするタイプなんだな」
「多分セクハラだぞお前」
「少年達ー? 小声のつもりなんだろうけど、聞こえてるよー?」
不意に、首筋に冷たいものが当たった。
「んひっ!? ……クロエ、いきなり首筋狙って氷魔法はやめろ」
「すけべ……アキヒサは大師匠よりも私を見るべき」
不機嫌さを剥き出しにしたクロエが着ているのは、白を基調とした、フリル付きの……その、可愛らしい……セパレートの水着。こういうのをクロエが自ら選ぶとは考えにくいから、多分母さんのセレクトだろう。
「あー……なんだ、似合ってるんじゃないか?」
「ん。ちょっと足りないけど許す」
「よし、じゃあ早速スイカ割りといこうじゃないか」
用意したスイカは日本産とリュンヌ王国産が1個ずつ。1番手は、この中で最も非力なクロエだ。
……おい、最初の回転で既に立っているのもやっとの状態って嘘だろ。なんとか声で誘導を図るも、あっちにべしゃ、こっちにぐしゃ、と散々な有様だった。もちろん、スイカにはかすりもしなかった。
「おぇ…………まだ頭が安定しない……非合理的」
「じゃあ、次は私だね」
「一応言っときますけど、魔法で探知とかはナシですよ?」
「分かっているとも。腕力の強化に留めるとしよう。では、誘導を頼むよ」
「ふむ……そのまま真っ直ぐ10歩」
「右に3歩ずれて……そこです!」
シルヴィの振り下ろした棒は、見事スイカを真っ二つに割った。
「おお、お見事」
「ふぅ……日本のスイカは脆いんだねぇ」
……今なんて言った?
シルヴィの発言に不安を覚えながらも、次は牛込の番だ。ここからはリュンヌ王国産のスイカを叩くことになる。
棒はスイカのど真ん中に当たったが、ガツッ、と音を立ててはね返された。肝心のスイカには少し傷がついただけ。
「衝撃が全部手に返ってきた……! なんだよこのスイカ、鉄でできてんのか!?」
「こっちのスイカは……モンスターから種を守るために、皮が非常に硬い。木の棒で割るのは非合理的」
「ロドリグなら素手でも割れるかもしれないけどね」
「シルヴィ殿、流石に儂でも素手では無理です」
「もっと早く言ってほしかった……じゃあどうやって割るんですか?」
「ふふ、こういう時のために良いものを持ってきていてね」
そう言ってシルヴィが取り出したのは、いかにもRPGに出てきそうな剣。
「うおーッ!? なんスかそのかっこいい剣!?」
「何年か前に勇者君の手伝いをしたことがあってねぇ。そのお礼に聖剣の余りを貰ったんだよ」
「聖剣って余るモンなの!? というか、スイカに聖剣は過剰だろ!?」
「ちょ、それで再挑戦いいっスか!?」
ノリノリで聖剣を構えようとした牛込だったが、思ったより重かったのか変な姿勢になっていた。……結果については、語るまでもないだろう。
続いて、俺の番。確かにそれなりの重みを感じるが、両手で構えられないほどではない。
「……合理的な構え」
「海パン姿でああも様になるんだな……すげえや」
「世が世なら何かしらの武功を挙げていただろうな……」
「全員ガヤ入れる前に誘導してくれよ」
「私まだ何も言ってないんだが!?」
少々調子が狂ったが、誘導に従って聖剣を振り下ろす。持っているのがガッツリ刃物なだけに、緊張もひとしおだ。ザス、と食い込む感触がして止まった。
目隠しを取ると、刃はスイカの中ほどまで入っていた。聖剣でも一発で切れないなんてどんな硬さだ。
まあ結局、この硬すぎるスイカはロドリグさんのパワーが乗った聖剣によって両断されたのだが。
「いやー、そこそこ直射日光に当たってたのにキンキンに冷えたままなんだから、ホントにクロエちゃん様々だぜ」
「冷やすのは私の得意分野。もっと褒めてくれてもいい」
「牛込、あんま調子に乗せるな。にしても、皮がアレだったのに中身は普通にスイカだな……」
「日本のスイカは塩がなくても甘いんだねぇ……」
「あの脆さを考えれば心配になる程です」
各々感想などを言い合い、スイカを食べ終えてひと息つくと、隣に座っていたクロエが脇腹をつんつん、とつついてきた。
「……アキヒサ。観察及び味覚体験……非常に高得点」
「そうか。まあ、お前が楽しめたなら良かったよ」
「……次は、夏祭り。……スケジュール確保を要請」
「いいねぇ、夏の行事はまだまだ目白押しだ」
……やれやれ、今年の夏休みは本当に退屈しそうにないな。
要素詰め込んだら長くなっちった




