27番地 門の向こうの自由研究
もう9月ですが夏休み回の始まり。
第1章以上にまったりのんびりしてると思いますが引き続きよろしくどうぞ。
世界の危機を乗り越えて、地獄のような期末試験もなんとか乗り越えた俺と牛込。
「テスト終わったー!! 夏休みだぞ小鹿ぁ!」
「終わった瞬間活き活きするなお前……出来は大丈夫かよ?」
「そこは大師匠様からもらった薬のおかげよ? とりあえず落単は回避できそうだぜ。お前は別に薬なしでも余裕だったろうけどさ」
「にしても、副作用で髪がクッソ伸びた上にハサミが通らなくなるのは地味にキツいだろ。2、3日で硬さは戻るとはいえ」
そのせいで、現在は俺も牛込も髪をポニーテールのように結んでいる状況だ。夏場は蒸れるし、有り得ない速さで伸びたもんだから他の友人知人からギョッとされるのもダルい。
「そういやオレの部屋、今マジで快適なんだよな」
「なんだよ自慢か?」
「まぁ間違いじゃねぇな。エアコンの効いた涼しい部屋でゲームと動画鑑賞ができる拠点ってんで大師匠様がすっかり気に入っちゃってさぁ。日本のゲームやら菓子やらと異世界の肴や酒が入り交じって、これがまあカオスな秘密基地みたいになってんだよ」
「お前、最初はエロ本見られて落ち込んでたのにすっかりシルヴィさんと馴染んでんな……第一、それで電気代とかエグいことになってないか?」
「大師匠様も『流石に生活費ぐらいは負担するよ』って言ってくれてさ、そこは心配ご無用だぜ」
「へぇ、感心……って、どうやって日本円を調達してるんだ?」
「セゾニエ村の近くで拾った綺麗な石を『海外産の珍しい鉱物標本』として質屋に売ったり、オレのPC使ってネットのデータ入力代行なんかを爆速でこなしたりしてんだよ。『この世界の術式は単純でいいねぇ』とか言いながら数時間でサクッと数万円稼ぐんだぜ? 意味分かんねぇだろ」
「もうPCの操作マスターしてんのかよ……大魔導士の無駄遣いにも程があるだろ……」
などとアホな話をしつつ牛込と別れ、アパートに帰宅すると、リビングでクロエが何やら真剣な表情で、スマホに何かを猛烈な勢いで打ち込んでいた。
「ただいま。何してんだ?」
「……おかえり、アキヒサ。私は今、この『夏休み』というニッポンの長期休暇概念を活用し、重大なプロジェクトを進行させている」
「プロジェクト?」
詳しく聞くと、セゾニエ村の特産品や魔法触媒を日本の現代技術(家電や調理器具)で加工したらどうなるか、という研究を計画していた。……頭に"夏休み"と"自由"がつきそうな研究だな。
と、そこへ勢いよく玄関のドアが開く音がした。その発生源は、間違いなく牛込とシルヴィだろう。
「何やら楽しそうな話してんじゃないの〜?」
「インターホンぐらい鳴らせよ……あとなんで分かった?」
「この耳は伊達じゃないということさ。その計画、我々にも一枚噛ませておくれ。私も『日本の夏』というものを観察してみたくてねぇ」
「……海。かき氷。夏祭り。……観察及び味覚体験。非常に合理的な夏休みの過ごし方と試算」
「お前がただ遊びに行きたいだけだろ」
とはいえ、過酷な試験と世界の危機を一緒に乗り越えたクロエ達の頼みを一蹴するほど俺も非情ではない。
「……まあいいか。今年の夏休みは賑やかになりそうだな。とりあえず今日はテストの打ち上げで、美味いもんでも作るか」
「そう言うと思って、酒と食材も用意してきたぜ☆」
「ちゃっかりしてんな……」
何品かの料理を前に、クロエが満足そうにジト目を緩め、シルヴィと牛込がカンパイの声を上げる。
「二つの世界を繋ぐ門」がある、俺とクロエの特別で賑やかな夏休みが幕を開けた。




