24番地 シルヴィ は ばんしゃく をおぼえた!
物語が動いたところですが、ここで箸休めです。
繋がった寝室の問題が進展(?)したところで、シルヴィがポン、と手を打った。
「……と、まぁ真面目な話は一旦置いておくとして」
「置いておくにはデカすぎる話では?」
「まあいいじゃないか。『急いては事を仕損じる』と言うだろう? 絵空事でしかなかった"異世界"が目の前にあるとなれば、色々知りたくなってね。まずはそうだね……この世界ならではの生活道具について聞いても?」
いきなり「この世界ならでは」と言われてもな……とりあえずリビングに移動して、エアコンとテレビについて簡単に説明する。
「ふぅん……部屋全体に均一な冷気を行き届かせる……高度な複合魔法でようやくできる芸当を電気の力だけで動かすのかい。そしてそっちの『テレビ』とやらは事前に記録した映像を映す、と。こっちにも映像を投写する魔法道具はあるが……実のところどれだけのものなんだい?」
「実際に見ていただいた方が早いかと」
テレビをつけると、旅番組が流れていた。沖縄でロケをしているようだ。
「ほう……まるで遠くの地を自分の目で見ているかのようだねぇ。それに……この料理はなんだい? 植物のようだが……あの『すまほ』だけでなく、この国の人間は食文化もここまで洗練させているのかい?」
「あ、これは海ぶどうと呼ばれる海藻で……俺も食べたことないんですけどね」
すると、どこからかキュルキュル、と音が聞こえる。晩飯を食べたばかりの俺やクロエではない……となれば、"犯人"は1人しかいない。
「そういえばシルヴィさん、夕飯はまだでした?」
「……恥ずかしい音を聞かれてしまったかな? 実を言うと、この国の食文化に非常に興味があってねぇ」
「今あるもので簡単に作れるものなら……」
冷蔵庫を開ける。中にあるのは……豆腐と胡瓜、玉子ぐらいか。普段残り物が出ないのがここでアダとなるとは……。
数分して、スティック状に切った胡瓜と冷奴、そして地味に余らせていた缶詰の焼き鳥を、電子レンジで軽く温めたものを卓上に置く。さっきの話を聞いた後だと妙な緊張感があったが。
あとは……缶ビール。今日一日だけで膨大な情報が飛び出したのだ。正直飲まなければやってられない。
「どうぞ」
「本当にいとも簡単に作ってみせたね? おや、そっちはお酒かい? ここを上げるといいのかな?」
シルヴィは説明するまでもなくプルタブをカシュッ、と開けて一口飲んだ。
「……ほう! 麦の苦味と炭酸の刺激……喉越しが素晴らしいじゃないか! 王都の高級酒場でもお目にかかれない逸品だよ。さて、小鹿君が作ってくれた料理も……」
「……夜8時過ぎの無鉄砲な間食。非合理的」
「お前が一番真っ先に食べる顔してるだろ。しれっと俺の隣に座っといて……」
なんだかんだ言いつつ、適当につまみながら話に花を咲かせる。
「それにしても、魔法も使えない人間が、知恵と技術だけでここまでの豊かさを作り上げた……小鹿君、君達の世界は本当に面白いねぇ。気に入ったよ。空間固定の術式を組む間、私も定期的にここへ観察に来ることにしよう」
「"観察"に別の意味が隠れてません?」
「……大師匠、アキヒサのご飯の占領は非合理的。私の分は残して」
「お前ら2人して俺の部屋を酒場扱いするな!!」
……まさかシルヴィが懸念していた事態が、こんなに早く起ころうとは。その時の俺達は知る由もなかった。




