23番地 大魔導士の分析と黒歴史の光
今回、繋がった寝室の謎が少し明らかになります。ちょっと長めです。
梅雨が明け、前期の期末試験も近づいてきたので勉強に勤しんでいると、クロエ側の"インターホン"が光った。
クロエはトイレに行っている……俺が出るしかないか……。
「ったく……肝心なときにいねぇのかよ……」
ボヤきながら玄関に向かう。
「はいはい、お待たせしました、っと……」
「おや、小鹿君が出てくれるとは丁度よかった。クロエだったら門前払いされていたかもしれないからねぇ」
「シルヴィ…………さん?一体どういった用件で?」
「"さん"の前に妙な間があった気がするが……まぁいい。君に話がある。私の推測が正しければ、不特定多数に知れ渡るのは"合理的でない"話だから、とりあえず上がらせておくれ」
いまいち釈然としないが、上げるまではテコでも動かなさそうなので(仕方なく)クロエ側のリビングへ通す。
「それにしても、あちこち散らかってるね?」
「ちょ、直球……ちょいちょい掃除はしてるんですけどね……とりあえずお茶でも持ってきます」
「そこまでは求めないさ。押しかけてきたようなものだからねぇ。それで、本題だけど……君、この世界の人間じゃないね?」
自らバラすこともないが隠すほどでもない振る舞いをしていたので、遅かれ早かれこうなるとは思っていたが、いざ指摘されると冷や汗が出る。
「……なぜそうお考えに?」
「おや、否定しないのかい?まぁ、根拠はいくつかあるんだが……一つ、君と出会うまで日本という国を聞いたことがなかった点。牛込君が持っていた『すまほ』のような代物を作れる技術を持った国なんて、確実に噂になるのにねぇ?それから二つ、クロエは牛込君とは『同居すらしてない』と言っていたが、それならば彼が毎回この家に出入りしているのは何故だい?あまり田舎の拡散力をなめない方がいいよ?」
長生きと宮廷魔導士の経歴は伊達じゃない、ということか……腹を括り、"答え"まで案内することにした。
「……こちらへ」
「……?そっちに何かあるのかい?」
全ての始まりともいえる、繋がった寝室を見たシルヴィ……さんだが、流石に動揺を隠しきれないらしく、顔から大量の汗が流れている。
「……………………これマジかい?」
「マジです」
「……長年生きてきたが、空間が物理的に噛み合って部屋ごと繋がっている光景は初めて見たよ」
石造りの壁と、クロスに覆われた石膏の壁。グラデーションになっている境目をペタペタと触りながら、シルヴィ……さんは袖で冷や汗を拭う。
そこへ、トイレから戻ってきたクロエが合流する。シルヴィ(もう呼び捨てでいいか)を見るなり、不機嫌オーラを剥き出しにしている。
「……大師匠、勝手に上がらないで。不法侵入。非合理的」
「文句ならここまで通した彼に言いたまえよ。それよりもクロエ、君ねぇ……こんなとんでもない大事件を隠して平然と過ごしていたのかい!?」
シルヴィが素でツッコミに回るぐらいには大事らしい。「これはもう密偵どころの騒ぎじゃないね。世界線を跨いだ不法侵入かい」と呆れを含んだ声を漏らしているし。
壁の境目を探っていたらしいシルヴィの表情が、一瞬だけ鋭くなる。
「……待ちたまえ。この境界、単に繋がっているだけじゃない。ほんの少しだが、小鹿君側の……こことは別の部屋から出ている微弱な波長に反応して、術式が呼吸するように伸縮しているよ?」
どこからだ、と他の部屋を探りに行ったシルヴィを追う。キッチンに入り、シルヴィが「ここからか」と指したのは……。
「え?電子レンジと冷蔵庫ですか?」
正直、想定外だった。クロエも「寝室が繋がってからは特に変なことは起きてない」と首をかしげる。
「今は安定しているが、この箱の挙動によっては空間がさらに広がる危険性があるねぇ。よければ仕組みを教えてくれるかい?」
俺はネットで出てきた図も交えつつ、噛み砕いて構造を説明する。
「なるほどねぇ……この"電子レンジ"は微弱な振動で熱を起こし、そっちの"冷蔵庫"は冷気を循環させている、と。君たちの世界ではただの生活道具なんだろうけど……セゾニエ村……もっといえばクロエの家の地下に眠る古代の魔法装置がこれを未知の生活術式だと勘違いして、貪欲に学習しようとしているんだよ」
「はいィ!?」
これには驚いた。まさか俺が当たり前に使っていた家電のせいで、空間が大変なことになるかもしれないとは……!
クロエも珍しく「……私の研究不足。非合理的失敗」と肩を落として落ち込む始末だ。
そうなると、当然何かしらの対策を打たねばならない。しかし、クロエは「制御術式を組もうにも、構成のための材料が足りない」と首を振る。大師匠なら何か分かるかも、とクロエが提示したのは……俺の厨二病ノート。
なんでここでそれが出てくるんだよ!!慌てて奪おうとするも空しく、シルヴィは中をパラパラと押し戴くようにめくり、意地悪な笑みを浮かべた。
「……ハハッ!これは面白い!小鹿君、君が昔描いたというこの『黒き龍の魔法陣』の歪み……偶然にも、古代の空間固定術式の欠けていたパーツと波長がピッタリ合致しているよ!」
「嘘だr……ですよね!?過去の俺の妄想ですよ!?」
「ふふ、まあ直感で描いたんだろうけどね。このノート、空間の拡張を防ぐ『鍵』として使えるかもしれないよ」
「やれやれ、退屈しのぎのつもりが、えらい大事件に巻き込まれたねぇ。まぁ、可愛い孫弟子と小鹿君の生活を守るためだ。私も少し知恵を貸してあげよう」
助かるのはありがたいけど、俺の黒歴史ノートが世界の命運を握るのだけは本当に勘弁してほしい。俺は頭を抱えるばかりだった。
「……アキヒサ。黒歴史の活用は合理的判断。諦めて」
「お前はまず己の研究不足を反省しろ!!」
厨二ノートがまさかの鍵になるとは誰も思うまいて……




