20番地 陽キャとダウナーエルフお姉さん
この小説も気付けば20話。
大体タイトル通りの今回です。
「久々にセゾニエ村に行きたい」と、牛込がまたしてもいきなり訪ねてきた。こっちにも準備ってもんがあるんだが。
俺がボヤきながらあれこれ準備をしていると、一足先に外に出たらしい牛込の叫び声が聞こえてきた。イノシシ(いるか分からないが)でも出たら厄介だ、と急いでクロエ側の玄関に向かう。
……途中でげんなりとしたオーラを隠そうともしないクロエを見たことで大体察したが、たまたま近くを通りかかったシルヴィさんと鉢合わせたようだ。いらん心配かけさせて……。
「なーにやってんだよ牛込……」
「おや、小鹿君の知り合いだったのかい?」
シルヴィさんはすぐ近くの柵に寄りかかり、ゆったりとしたダークトーンのインナーにルーズなズボン、そして上からネイビーのフード付きローブを羽織るという、いかにも隠居エルフらしいラフな格好をしていた。涼しげな目元に切れ長のジト目を浮かべ、ローファーのつま先でトントンと地面を叩きながら、相変わらず気怠げなオーラを放っている。
一方の牛込はといえば、まるで世紀の大発見でもしたかのように目を輝かせ、シルヴィさんの前で身悶えしている。こういうのを限界オタクというんだったか。
「あ、小鹿!お前っ、何さらっとスルーしようとしてんだよ!見ろよ、涼しげなジト目に金髪ストレートロング、そんでもってローブを気怠げに着崩したダウナーエルフお姉さんだぞ!?完全にオレの癖のド真ん中、ファンタジーの生ける伝説じゃねえかッ!」
「あー……うん。伝説なのは間違いないけど、中身はただのニートお姉さんだから落ち着け」
「よく分からないが、失礼なことを言われた気がするねぇ。……まぁ、その少年の褒め言葉は、悪い気はしないが」
シルヴィさんは細い目をさらに細めて、フッと余裕に満ちた笑みを浮かべる。その背後で、最初からげんなりとしたオーラを隠そうともしていなかったクロエが、一層小さくなってボソボソと呟いた。
「……大師匠、外見だけはそれっぽい大魔導士。中身はただの超省エネ引きこもり。騙されちゃダメ」
「おやクロエ、手厳しいねぇ。小鹿君の他にも、こんなに賑やかな知り合いを隠していたなんて。……そうか。君が囲っている『面白い男』は2人いると聞いていたが、そのもう1人が彼か」
「……囲ってない。アキヒサとは合理的同居生活。タツヤとは同居すらしてない」
クロエはスマホの画面で顔を半分隠しながら耳まで真っ赤にする。その「大師匠」という単語に、牛込が大袈裟に飛び上がった。
「だ、大師匠ーーッ!?ってことは何!?クロエちゃんより強い魔法使いってことか!?”エルフの大魔導士”とか実在したのかよ!」
「おや、少年。君、なかなか見る目があるね。私はシルヴィ・エスピエ。一応、そこで茹でたクラーケンみたいになってるクロエの師匠……のそのまた師匠さ。まぁ、今はただの暇人だけどね」
「大師匠様ァ!オレ、牛込達也って言います!オレ、ネットセキュリティを研究してて……」
興奮気味にスマホの画面を見せる牛込。それにしても「ネットセキュリティを研究している」は嘘だろ。どちらかといえば文系だぞ俺ら。
シルヴィさんは画面を一瞥し、「ほう……この薄い板、世界の裏側の情報と常時同期しているのかい。しかもそれを、高度な暗号化の術式で守っている、と」と、分析するように言うと、ニヤリと笑った。
「その『日本』とやらは、随分と底の知れない国のようだねぇ。……少年達、君達はそこから送り込まれた密偵かい?」
み、密偵!?
冗談半分だとは思うが、この大魔導士相手にその誤解は展開的にかなり危ない。俺と牛込は慌てて手を振って弁明した。
「い、いや普通の学生です!」
「牛込のはただのマニア……好事家の知識です!」
「ふふ、まあそういうことにしておこうかねぇ。クロエ、君随分とややこしい組織の少年たちを囲い込んだね?」
完全に楽しんでからかっている様子のシルヴィさんに対し、クロエは「……大師匠、深読みしすぎ。非合理的」とスマホで顔を隠したまま茹で上がるばかりだった。
本当に調子狂うなこの人……。
なんか書いてて勝手に動いてる感じがするな、シルヴィ……。




