17番地 だいたい非合理的な看病
今回はどこかでやろうと思っていた看病回です。
いくら頑丈でも限界はある。
朝、目が覚めると体が鉛のように重い。一瞬筋肉痛かと思ったが、強烈な悪寒と頭痛で起き上がれない。なんとか体温計を持ってきて測る。
「37.5℃……やらかした。完全に知恵熱だ、これ……」
思えば、雨に濡れたり、両親が押しかけてきたり、クロエがスマホデビューしたりで疲れが溜まっていたのだろう。
大学など必要最低限の連絡を済ませ、一日寝ていることにする。
そこへ、いつも通り数分遅れて目覚めるクロエ。
「おはよう。……珍しく寝坊?」
「おはよう。悪い、今日風邪でダウンだ。……うつるといけないから、飯は適当にコンビニで買っててくれ……」
俺がそう言うと、クロエは「了解」とだけ返し、実にあっさりと部屋を出ていった。
……まぁ、あいつならそうだよな。
薄情な同居人に少しだけ苦笑しつつ、俺は重い瞼を閉じた。
数分後、物音で目が覚める。方向からするに台所からのようだが、アイツ何をやってるんだ?
と思って間もなく、クロエからLIMEが届く。
『アキヒサのお父さんから、よろしく頼むと軍資金を貰った。放置は非合理的。大人しく待て』
さらに、ネットで調べたらしいお粥のレシピのスクリーンショットも添えられていた。
クロエが料理?やることがシンプルなお粥とはいえ、不安しかない。
案の定、台所から「ガシャーン!」「……あ、火が」と不穏な音や発言が響き、正直気が気ではなかった。
これ以上はいよいよ台所が燃えかねないと思った俺は、LIMEで『大人しく冷凍うどんでもチンしろ』と送るが、クロエから『静かに。今、私の中の調理スキルが進化している』と謎のドヤ顔スタンプ付きで返ってきた。頭痛がひどくなった気がする。
「まあアイツなら火は消せるしいいか」とツッコミを放棄し、俺は再び眠りに就いた。
やがてクロエがお盆に乗せて持ってきたのは、ちょんまげのような形をした珍妙な草が乗っている、少し焦げたお粥だった。
「……何だこれ」
「お粥」
「そっちは分かる。草の方は何なんだ」
「身体を温める薬草。風邪にはちょうどいい……多分」
「そこ曖昧にしちゃダメだろ」
まあ、弱っているのは確かなので厚意は素直に受け取る。
まずは一口。薬草の味なのか、ほんのりと甘い。
「……見た目はアレだけど、美味いな。あったまるわ」
「……当然。ネットの知識と、私の魔力の結晶。合理的」
味つけも控えめになっているのもあってか、スルスルと完食。
……枕元にスポーツドリンクを置くのはともかく、冷えピタぐらいは自分で貼れるんだが。
「お前も向こう戻って寝てていいぞ、うつるから」
「……ネットに書いてあった。『看病は、患者が寝付くまでそばにいるのが合理的』だと。……だから、ここにいる」
クロエなりの不器用な優しさなんだろうな、と苦笑しつつ、俺は心地よい眠りに落ちていく。
翌朝。熱はすっかり下がり、驚くほどスッキリした気分で目が覚める。異世界の薬草が効いたのかもしれない。……右足がぼんやり光っているのが引っかかるが。
「よし、動けるな。クロエに礼でも言っておくか……」とリビングに向かうと、そこにはソファで毛布にくるまり、ずるずると鼻をすするクロエの姿が。
「……頭が、熱い。アキヒサの風邪、すごく強力な呪い…………アイス、持ってきて」
「しっかりうつってんじゃねえか!!さっさと自分のベッド戻って寝てろ!!」
結局、今度は俺がクロエを看病するハメになるのだった。




