15番地 スマホと魔法使いと、時々オトン
同日更新その3。
クロエが遂にスマホデビューです。
母さんが嵐のように来て去っていった翌日の午後。渡された軍資金を手に、クロエのスマホを買いに行く準備をしていると、玄関のチャイムが鳴る。
「今から出かけるタイミングに誰だ……?はい」
「……直接会うのも久々だな、明久」
今度は父さんが立っていた。
「母さんに続いて連絡なしは勘弁してくれよ……」
「したぞ……既読はなかったが」
「え?」
自分のスマホを確認すると、確かに父さんから「明日そっち行く」とメッセージが来ていた。
「…………ごめん」
「大丈夫だ。母さんに、スペックのわかる人が行かないとカモにされると言われてな……」
「いや確かにウチで一番詳しいの父さんだけどさ……」
「それで……君がクロエさんか。息子が世話になっております」
「はじめまして」
どっちかといえば世話しているのは俺なんだが――この場でそれを口に出すほど、俺は礼儀知らずじゃない。
「……行くか」
階段を降りていくと、父さんが使っている黒いミニバンが停まっていた。
俺以上にいかつい父さんとの組み合わせってだけでもアレなのに、クロエも合わさると完全に事案である。スマホを買いに行くだけだが。
特に検問で引っかかったりすることもなく無事に家電量販店に着いた。
「母さんは『ケチったら承知しない』なんて言ってたけど、ハイスペックすぎてもコイツの場合もて余すと思うんだよ」
「……スペックがあって困ることもない。この際だ……明久も買い替えるか?」
「今のでも俺には過剰なスペックだっての。まだ買って1年くらいしか経ってないし……第一使うのはクロエだぞ?デザインで選ぶぐらいはアイツでもできるだろ」
「それもそうか……クロエさん、気に入った見た目のものはあるか?」
「色にも大きさにもこだわりはない」
お前ならそう言うかもとは思ったよ……。
父さんとの押し問答の末、俺が使っているキャリアで一番とはいかずとも上等なスペックのもので決着となった。クロエはほぼ傍観していた。分からないでもないが、一応お前が使うものだぞ。
どうにかこうにか契約を済ませ、近くのカフェに立ち寄る。クロエにも分かるよう懇切丁寧に説明してくれた店員には頭が下がる。
一旦トイレに立って戻ってくると、さっきまで"無"の雰囲気だった父さんとクロエの間に、妙な連帯感が生まれている感じがした。
「何の話してたんだ?」と聞いても、「他愛ない話だ」「合理的な情報交換」とはぐらかされた。ろくでもない話してるやつだろそれは。
いまいち釈然としないまま帰宅。父さんは「母さんにも連絡しておけ」と言って去っていった。母さんが嵐なら、父さんは霧といったところか。
クロエはソファにダイブして色々と検索しているようだ。
「設定とか大丈夫か?……っておい、なんだその待ち受け」
クロエのスマホに映っていたのは、いわば俺の黒歴史。幼稚園の運動会で泣いている俺の写真だった。
「……お義父さんから『アキヒサの取扱説明書』を送ってもらった。……これ、すごく合理的」
クロエから聞き出した経緯はこうだ。
俺がカフェでトイレに行っている間のこと。
父さんは俺の幼少期の写真を見せながら、「……明久は不器用なところもあるが、根は真面目だ。……息子を、よろしく頼む」と、クロエに頭を下げた。
対するクロエも、「……了解。不器用なのは知ってる。……でも、悪い人じゃない。……私も、よろしく」と、頭を下げた。
その後父さんが問題の写真を送り、少しして俺が戻ってきた――ということらしい。
その表現だと俺が婿入りするようにも聞こえるんだが?とか、クロエは何目線なんだ、とか思うところはあるが……まずは一言。
「親父ィィィ!!余計なもん共有してんじゃねえ!!」
「アキヒサ、うるさい」
身分証とかはどうしたのかって?
……まあ、なんとかなったんではないかと。




