14番地 母は強し(いろんな意味で)
同日更新その2。
小鹿の家庭事情がちょっとだけ明らかになります。
といっても重いものではないですが。
雨のすごろく騒動から一夜明けた日曜日の午後。
昨日あれだけ降っていたのが、今日は嘘のように晴れていた。リビングで軽く筋トレをしながら晩飯のメニューを考えていると、突然インターホンが鳴る。
また牛込が凸してきたのか、とため息をつきつつドアを開けると、そこに立っていたのは大量の荷物を抱えた女性。
「帰国ついでに仕送り直接届けに来たわよ〜!」
「来るならせめて連絡くれよ……母さん」
「ごめんちゃい☆」
アラフィフの母親の「ごめんちゃい☆」はキツすぎる。スケジュールが不規則な仕事とはいえ、毎回不意打ちで訪ねてくるのはやめてほしい。
「というわけでリビングに置かせてもらうわね」
俺の返事を待つことなくズカズカと上がり込む母さん。マズい……!クロエのことがバレたら確実にめんどくさい!
せめて向こうにこもっていてくれ、という俺の願いも虚しく、クロエはアイスを片手に台所から出てきた。
当然、母さんとバッタリ。
その場が静まり返る。
マズいマズいマズい!見つかった……どう言い訳する?「友人の妹を預かってる」とでも言うか?いや、こんなゴリラに妹を預けるようなマネはたとえ牛込でも躊躇いそうだ。
沈黙を破ったのは母さんだった。
「あら!可愛い子ね!明久、いつの間に彼女できたの!?」
「違うわ!!」
思わず即答してしまったが、後々言い訳するためにもそこは乗っかっておくべきだったと後悔。
母さんはいつものローブ姿のクロエを上から下までまじまじと見る。
「ハーフの子かしら?でも地毛で青なんて聞いたことないし……だとしたらコスプレ?」
クロエは目線で助けを求めている。俺だってあれこれ突破口を模索しているんだからもうちょっと耐えてくれ。
「でもなんで明久の家でやってるのかって話よね……それにあまりにも自然体すぎるというか……もしかして、"本物"……だったり?」
「……バレた以上はしょうがない」
「その言い方だと口封じしそうにも聞こえるんだが」
クロエは観念したように、諸々の事情を母さんに打ち明けた。
「異世界の魔法使い、ねぇ……事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものね」
「"奇"が過ぎるけどな」
当のクロエは母さんが持ってきたサクランボを頬張っている。
「……このサクランボ、甘酸っぱくて美味しい。合理的」
「お前はお前で小動物みたいになってんぞ」
母さんは腕を組んで、ふーむ、と息を吐いた。
「魔法使いなのは分かったけど、日本の戸籍も身分証もないんでしょ?そんなの悪い大人にでも捕まったら一発よ。明久!この子、放っておいたら危ないわ。あんたがちゃんと面倒見なさい!」
「クロエを拾ってきた子犬か何かだと思ってない?」
「さて、そろそろ行かないとね。明久が元気にしてるのを見られてよかったわ。それからクロエちゃん、また連絡するからLIME教えて?……というかスマホ持ってる?」
「持ってない」
母さんが信じられないものを見たような顔になった。そのまま俺の方を向いた。怖い。
「それってつまり……明久が大学行ってる間の連絡手段がないってこと?ちょっと明久!今どき女の子にスマホも持たせないなんて、甲斐性なしね!明日、絶対に買いに連れて行きなさい!お金のことは心配しなくていいから!」
有無を言わせぬ勢いで「スマホ代」と書かれた、少し厚みのある封筒を俺に握らせると、母さんは颯爽と去っていった。相変わらず嵐のような人だ。
「……アキヒサのお母さん、すごいバイタリティだった」
「息子としてはもう少し抑えてほしいとこなんだがな……明日の午後にでも買いに行くか」
そう言って封筒の中身を確かめると、明らかに最新機種が数台買えるレベルの渋沢が詰まっていた。
さらに一枚のメモ。『お釣りの分は、クロエちゃんに美味しいものでも食べさせなさい。ケチったら承知しないわよ』
いつの間にここまで用意してたんだ……。
「……母さん、クロエの身元引受人になる気満々だな」
「……アキヒサのお母さん、好き。合理的」




