13番地 雨天遊戯
同日更新その1。
私事ですが、湿気が地味に辛くなってきました。もう歳でしょうか?
6月某日、土曜日。今日は東京もセゾニエ村も雨である。
今出ている課題は既に終わっているし、買いに行かねばならないものも特にない。洗濯など、やり残した家事も用事もない。
つまるところ、暇だ。この雨では外に出る気にもならない。
そして、それはいつも研究一辺倒なズボラ魔法使いも例外ではないようで。
「もう今日は調子出ない……」
「お前が研究切り上げるなんて、いよいよ雷でも落ちるのか?」
「私も人間。そんな時もある。アキヒサ、遊ぼう」
「別に構わんけど……何するんだ?」
「確か大分前に作ったゲームがあった。取ってくる」
ゲームか……ボードゲームの類だとすれば、結構ご無沙汰だな。一人暮らしだとなかなかやる機会もない。
…………待て、「作った」と言ったか?アイツの作品となるとちょっと不安になるんだが。
そんな俺の考えなど露知らず、クロエはアンティーク感のあふれる箱を持って戻ってきた。
広げると、すごろくのマスらしきものが描かれた盤とコマ、サイコロが現れた。
「すごろくか。思ったよりは普通だな」
「ただのすごろくじゃない。止まったマスに応じた効果が発動する」
「どこかで聞いた記憶があるぞ?」
マスをざっと眺める。「1回休み」や「2マス進む」など、書いてあることは結構普通だ。
ひとまずやってみよう。まず俺の番か。
サイコロを振って、出た目は6。まずまずの出だしだ。
「『座りすぎで足が痺れる。1回休み』……幸先悪い、な……っ!?」
突然、足に痛みが走る。書いてある通り、痺れてまともに動かなくなった。
「……っ、ジャブに、しては……キツすぎるだろ……」
「……師匠が『初手で6出すほど興醒めなこともない』って言ってたの思い出した。6の倍数のマスはちょっと内容が厳しくなってる」
「もっと早く、思い出して……ほしかった……!」
続いて、クロエがサイコロを振る。
「1、2 、3……お。『いつも以上に体調がいい。スキップして1マス進む』」
ゲーム的にプラスとはいえ、コイツにスキップなんてできるのか?……おぉ、大分ギクシャクしてるけどスキップっぽくはなってるな。
「………………ぉえ」
「スキップして気持ち悪くなるヤツは初めて見たな」
その後も発動する効果にやいのやいの言いながら続けること数ターン。すごろくをしているはずなのに、疲れてきた。
「……3、4。えーと……『シンクロ率を高める魔法の練習。次の自分の番まで、右隣のプレイヤーとこのマスに止まったプレイヤーは同じ動きをする』なんだこりゃ?」
試しに右手を前に突き出してみると、クロエも同じように右手を伸ばした。……そういやコイツ運動不足だったな?
「アキヒサ?悪い顔してる……何するつもり?」
「なに、ちょっと軽く運動をな」
クロエの顔が青くなったようだが、コイツ自身のためでもあるのだ。こういう機会でもないと、な。
とりあえず、スクワットだ。
「ハイい〜ち、に〜ぃ。膝はつま先より前に出さない。股関節から畳むイメージで」
「うっ……意外と……キツい」
「足の筋肉は衰えやすいから鍛えといて損はないぞー。ハイさ〜ん、し〜ぃ」
「……待って。アキヒサ、止めて。膝が、笑ってる。死ぬ」
もはや半泣きで懇願するクロエ。回数はまだ足りないくらいだが、俺にサドな趣味はないのでやめておく。
「……ほれ、お前の番だぞ」
「……さっきの仕返し」
そう言うと、クロエはその場にパタリと倒れ伏す。当然、俺も同じポーズになって動けなくなった。
「おま……遅延行為は卑怯だろ……!」
「さっきのスクワットで疲れた。回復する時間ぐらい欲しい」
それから更に数ターンが過ぎ、俺が大分リードしていた。次はクロエの番だ。
「1、2、3……『うっかりミスで左隣のプレイヤーと鎖で繋がれる』……え」
ガシャン、と音がしたと思ったら、クロエの左手と俺の右手が鎖で繋がった。長さは1mくらいか。
しかもタイミングが悪いことに、トイレに行きたくなった。仕方なくその場を立とうとすると、クロエが顔を赤くしながら、鎖を引き寄せて抵抗してきた。
「漏れそうなんだが」
「……合理的じゃない。なんでアキヒサが用を足す音を、至近距離で聞かなきゃいけない?」
「合理的も何も、自分で作った内容だろ。俺の尊厳が死ぬか、お前の精神が死ぬかの二択だ、行かせてくれ」
なおも抵抗するクロエだったが、最終的に力負けしてズルズルとドアの前まで連行される。仕方ないとはいえ、俺も恥ずかしくなった。
トイレから戻り、俺の番。5の目が出た。
「えーと……『振り出しに戻る』ここまできてついてないな……!?」
気づけば、俺は玄関先まで飛ばされていた。雨脚が強まっていたので、そこそこ濡れる。しかも右手の鎖はまだ残っている。つまり、クロエも一緒に飛ばされて濡れた。
「……最悪」
「それはこっちのセリフだ。……とりあえずさっさと拭かないとな」
「同感。風邪引いても面倒」
体を拭いて再開するも、振り出しに戻されたことで開いた差はあまりに大きく、ゲームはクロエが逃げ切る結果となった。こんなに疲れるすごろくはまずないだろうな……。
「……もう二度と、お前の自作ゲームはやらん」
負けたのが悔しいからではない。断じてない。
「……同意。カロリーを消費しすぎた。……お腹、空いた」
「……ったく。もう1時過ぎてるからな。今から作ってやるよ」
「……アキヒサ、好き。合理的」
「スマン、聞こえなかった。雨漏りでもしてんのか?」
クロエが何か呟いたようだが、激しい雨音にかき消された。
――が。パシッ、と二人の手が不自然に引き寄せられる。
「……おい、何だこれ。また鎖か?」
「……あ。上がりマスの追加効果。『勝者は敗者の誰か1人と、ほどほどの時間手を繋げる』。……忘れてた」
「肝心なとこがアバウトすぎだ!お前のゲーム、やっぱり欠陥品だろ!」
ジュ……?知らないですね?




