12番地 職人はだいたい話が通じない
前にちょっとだけ触れたある人物が遂に登場します。
晩飯の後、課題をやっているとクロエの机にあったドーム状の物体が緑色に光った。
「……何だそれ」
「そっちで言うなら……インターホン。ちょっと見てくる」
「お前もまあまあ日本に馴染んだな……」
しかし、クロエを、ましてやこの時間に訪ねてくるとは珍しい人もいたものだ――などと考えながら課題を進めていると、クロエがぬっ、と顔を出した。
「うおぅビビった……来客はもう済んだのか?」
「どっちかというとアキヒサへの客。あっちに待たせてるから来て」
「俺に?」
異世界側で俺に用がある人など心当たりはないのだが……。疑問が尽きないまま、クロエ側の玄関まで歩く。
そこに立っていたのは、筋骨隆々の大男。身長にして2mはありそうだ。よく見ると、額からは短い角が2本生えている。
「……ほう。成程、なかなかの体つき。クロエが見間違えるのも頷ける」
「えーと……あなたは?」
「申し遅れた。儂はロドリグ・ルジュロと申す。このセゾニエ村で鍛冶屋を営むオーガだ」
鍛冶屋……?なんか知っているような……?
「アキヒサの家の合鍵を作った鍛冶師」
「アレかよ……」
「その反応、先日の鍵は無断だったと見える。……すまなかった」
「ま、真面目……あなたが謝ることでもないでしょうに……」
「まあここで立ち話も何だ。工房に来い」
「いやいやいや、急すぎません?夜ですよね今」
「善は急げというだろう」
「善か!?善なのかそれは!?」
「行こう」
「せめてお前は止めてくれ」
半ば引きずられるように工房へ。やっぱ力強いなこのオーガ。
重そうな扉を開けた先は、暴力的なまでの熱気と、肺の奥を突くような鉄の匂いに満ちていた。鍛冶場――いや、ロドリグさんにとってはある種の『戦場』なのかもしれない。
おまけに設備や道具をはじめとした全てがデカい。スケールが違いすぎるだろ!?
「では、本題に入るとしよう……鍵の詫びだ。僅かでも迷惑をかけてしまった以上、何か施しをせねば儂の気が済まんのだ」
あっ……この人、真面目は真面目でも"生"がつく方だ……。
「そこで考えた――鍵の詫びには鍵だ、と」
「それはつまり……?」
「お主の家を堅牢にしようと思う。これを見よ」
そう言ってロドリグさんが見せたのは、黄色や紫、様々な色に輝く錠前。
「ミスリル鉱の錠前だ」
「ドラゴンの上位クラスでもないと壊せない石。すごく貴重で高価」
「この錠前が真っ先に盗まれたら意味ないだろ」
「うぅむ……ならばこれはどうだ?」
次に取り出したのは松明のような形の道具。
「……これは……?」
「盗人が侵入しようとするとけたたましい音で威嚇する装置だ」
「私も制作に協力した」
あれ?思ったよりマトモなものが出てきたな。
「まあ住民が帰ってきたときにも反応してしまうことがあるんだがな」
「隣近所からクレーム来るわ!」
その後もロドリグさんは色々なものを持ってきたが、どれもこれも俺や真っ当な訪問者も引っかかりかねなかったり、敷金が消し飛びそうだったりでとてもマトモに使えるものではなかった。
いい加減ツッコむのにも疲れてきた。
「ハァ……防犯グッズじゃなくていいんで……包丁作ってもらうのは大丈夫ですか?」
「ホウチョウ……ああ、料理用の刃物か。それならばお安い御用だが、その程度のもので良いのか?」
「大丈夫です。今使っているのがそろそろ寿命なので」
そもそもが安物だったし、異世界の職人技というのも気になるしな。
「それで詫びとなるのであれば喜んで引き受けよう。ただ、工程上2週間はかかる。完成した暁には届けに参る故、しばし待ってくれ」
「2週間でも十分速いんですが」
サイズや具体的な形状などを伝え、俺とクロエは工房を後にした。
2週間後、完成した包丁が手元に届いた。
「おおー……丈夫そう」
「ロドっさんの打つ刃物は切れ味も評判。使い手によっては牛の骨も切れる」
「そこまでいくと怖えよ」
「あと、それ結構重かった。普通に扱えるアキヒサも大概オーガ」
「あー……それはスマン」
早速大根を切ってみる。まるで豆腐を切るかのようにスッと刃が入っていった。
「おお、すげえ切れ味……」と感動したのも束の間。包丁は大根だけでなく、まな板やその下の調理台まで真っ二つにした。
「敷金が……俺の敷金が死んだ……」
「……もういっそのこと、床もいっとく?」
まあまあ絵面の暑苦しい回でした。
夏場だというのに申し訳ない。




