10番地 クロエの評価
クロエとてズボラなだけではないのです。
日曜日、朝食を済ませた俺が洗濯機を回そうとすると、インターホンが鳴った。
はっきり言って、気が重い。
「……はい」
「小鹿ー!異世界行こうぜー!!」
「○島かお前は。朝っぱらから玄関先であんまデカい声出すな」
「あ……タツヤ、おはよう」
「おはよークロエちゃん!早速だけど村行っていい!?」
「大丈夫。ちょっと待ってて」
「俺の意思は……?」
流されるように再びセゾニエ村へ。
監視もなしに牛込を村に放つとロクなことにならないのは目に見えているので、(不本意ながら)俺も同行する。
前に来たときとは別の場所を中心にブラブラしていると、慌てた様子の村人が声をかけてきた。
「クロエちゃん、ちょうどいいところに!」
「タイスおばさん……?どうした?」
その様子を見て、牛込が小さく呟く。
「……普通に相談されてるね」
「別の村人から引きこもりって言われてなかったか?設定どこ行った?」
改めて、クロエと、タイスおばさんなる村人の方に注意を向ける。
「今朝になって井戸の水が濁ってて……味も急に甘ったるくなっちゃってねぇ……」
「甘ったるい……?なあ小鹿、それってもしかして、天然のミルクティーが湧き出たとかそういうやつか?」
「んなわけあるか。……って、お前いつの間に瓶なんて持ってんだよ」
「いや、ワンチャン高級飲料として日本で売れるかなって……」
牛込の商魂逞しい(かつ危機感ゼロな)呟きを、俺は無視することにした。
「……昨夜までに何か変わったことあった?」
「それが心当たりらしい心当たりもないのよ」
「ちょっと井戸、見せて」
そう言ってタイスおばさんの家に向かうクロエ。あと俺と牛込。
しかし、井戸水の汚染とは割と死活問題では?日本だったらニュースものだぞ。
などと考える俺をよそに、クロエは井戸の縁に立つと、懐から小さなガラス瓶を取り出した。
「……アキヒサ、これ持ってて」
渡されたのは、昨日の大掃除で見たような、正体不明の古いオブジェ(?)だった。
彼女が指先を水面に向け、短く呪文を唱えると、井戸の底とオブジェ(?)から微かに青い光が見えた。
いつもの「ご飯を待つ子犬」のような空気は消え、その横顔には、研究者としての鋭い色が混じっていた。
「……魔力反応あり。自然現象での汚染じゃない」
「分かるのか?」
「アキヒサが持ってる装置の色を見れば簡単」
サラッと言うことじゃないだろ。
さらに原因を特定するため、クロエは水魔法で井戸の中を全部抜く。ネズミのような胴体に馬の頭がついた、珍妙な小動物が出てきた。
「え、何その……馬?ネズミ?」
「これはウマネズミ。甘いものが好物でここ……腹に蜜として溜め込む習性がある。多分それが漏れて井戸水が甘くなった」
あまりの判断の速さに驚く俺と牛込。
クロエは件のウマネズミをいつの間にかあった箱罠に入れる。
「……これ、アキヒサのデザートにする?」
「人をゲテモノ食いみたいに言うんじゃない」
「この村ではそこまでだけど地域によっては食べるところもある」
「クロエちゃんは食べたことあるの?」
クロエは無言で目を逸らした。それでよく「デザートにする?」とか言えたな。
クロエはウマネズミを森の方向へ飛ばし、引き上げた水を魔法と持っていた薬を併用して浄化してみせた。
「……終わり」
「いやぁ助かったわ、クロエちゃん!」
ごく普通に感謝されるクロエを見て、牛込が耳打ちする。
「……普通にすごくね?」
「……ああ」
半分引きこもりとか言われつつも、なんだかんだ頼られるんだなアイツ……。
「お礼といってはなんだけど、干し肉か野菜でも持っていかない?」
「……礼には及ばない。礼ならこっちから貰う」
と、俺を指すクロエ。
「……いやなんで最後そうなるんだよ!?折角の活躍が台無しだ!」
結局、活躍したはずのクロエが俺に説教されながら帰路につく姿を見て、「仲が良いわねぇ」と笑う村人たちであった。




