初めての出征 ⑳
「エクラーダ系の調査なら、身体的特徴が似ている吸血種の方が適任では有るだろうな」
エクラーダ人が持つ金属的な色合いの銀髪と白変種の吸血種が持つ白髪。
日本人の中に北東アジア系の外国人が紛れ込んだ場合と同じだよ。
パッと見の外観で見分けることは難しいし、暗い場所で光に反射しなければ目の特徴も見分けにくい。
そこに間諜としての紛れ込む技術が加われば、居ると疑いを持って探さない限り見つけ出すことは困難だろう。
お母様は納得してくれたけど、吸血種については別の面で心配事が有る。
「・・・ただ、サーシャさんたちは昼間の調査が難しいだろうし、夜間は目の色が目立つから任せて良いものか」
「力量を測るのに丁度良さそうな案件だが、彼女らには肌が日光に弱い問題が有ったな」
私が抱いている心配にお父様も眉根を寄せる。
ところが、お母様は片眉を軽く上げただけだ。
「採掘場へ通うようになって以降、その問題は改善が見られるようだぞ。やらせてみても大丈夫じゃないか?」
「「えっ? そうなの?」」
話に加わらずノーアと遊んであげていたルナリアの声と、大真面目に相談している私の声が綺麗にハモった。
お父様も聞いていなかった情報だったようで目を丸くしている。
「フィオレの読みが当たったな。使える人員が増えるのは良いことだ」
一つの心配事が杞憂で済んだとばかりにお父様が小さく息を吐いた。
私も同じ気持ちで少しだけ肩の力が抜けた。
魔獣の血を飲ませることで体内保有魔力量が増えて、サーシャさんたちは身体の遺伝的な問題を乗り越えることが出来たらしい。
それはサーシャさんたちが抱えていた障害が無くなって、自由に活動出来る時間が2倍に増えたということだ。
健常者と同じように生活できるようになったのなら、それはそれで祝ってあげるべきことだよ。
一つの問題が片付いたのなら、話題は核心の部分へと戻る。
「で? その男と精霊が関係するのか?」
「・・・直接の関係はないよ。ただ、その人―――、グレーンさんが持ってきた嘆願の内容を他の新領民も聞いていて、すごく期待されちゃったみたいで」
今度はお母様が小さく溜息を吐いた。
「あの“獰猛くん”とやらを壊しにくくなったと?」
「・・・レティアに置いておけないなら、新領地に置けないかと提案された」
先回りしたお母様の理解に私も頷き返して追認する。
グレーンさんの提案はお母様も頭になかったようで、お父様と顔を見合わせる。
「エクラーダ系の新領民は、ほとんどが新領地へ移るのだったな」
「・・・それで、“意見を踏まえた上で代官と相談して判断する”って答えたら、他の人たちが私に向かって祈り始めちゃって」
自分の中で再確認するようなお父様の言葉に頷き返す。
これは、ほぼほぼ“獰猛くん”の移設は承認される流れじゃないかな。
正確にはピーシス領なんだけど、私たちにウォーレス領とピーシス領が分離したという認識は無いから「新領地」という呼び方になる。
つまり、広くなった自分ちの庭先。
でも、領民側から見ると別々の領地で、「ウォーレス領が凄いものを持っているならピーシス領にも欲しい」となるのかも。
東京に東京タワーが建ったなら大阪にも通天閣を建てようって感じ?
確か、日本国内に“〇〇タワー”って20ヶ所ぐらい有ったはず。
対抗意識ではなくとも地域のランドマークが欲しいという心理は働くものなんだろう。
しかも、外敵の脅威を我が身をもって知った人たちが、強い“獰猛くん”に「希望を見た」とまで言い出したわけだからね。
新たな生活圏のどこからでも「希望の象徴」が見えることが心の安定に寄与するという理屈は分かるけど、だったら“獰猛くん”を崇めていれば良いだけで私にまで祈らなくても良いじゃん。
そんな私の気持ちに気付いているお母様は笑った目を向けてくる。
「嫌なのか? 今さらだろうに」
「・・・そ、そうなんだけど、私は狂信者を率いる宗教指導者みたいになりたくないし!」
神教会という宗教の悪しき側面を煮詰めたような脅威に現実問題として晒されているお父様もお母様も、私の反論を理解してくれたようだ。
「まあ、そうだろうな」
「それは私も勘弁だな」
「・・・でしょ!? だから、誰かに擦り付けられないものかと」
頷き返してくれた2人に私の正直な思惑を暴露する。
お母様の首が傾ぐ。
「誰に擦り付けるつもりだったんだ?」
「・・・精霊様に感謝しろって」
ちょっと言い訳がましいとは思うけど、精霊信仰が強固になれば神教会の浸透戦略にも対抗できるんだから、私の判断は間違っていないんじゃないかな。
「なるほどな。それで精霊か」
「確かに精霊なら向けられる信仰を押し付けても問題は無いな」
ヨシ。お父様もお母様も理解してくれた。
「・・・精霊様に祈れ、私に祈るな、って心の中で新領民たちに向かって念じていたら」
「精霊が暴走した、と」
お母様が至った結論に大きく頷いて認める。
たぶん、私は悪くない。
無罪を確信する私に向けてお父様が困ったように眉尻を下げた。
初めての出征⑳です。
押し付けに失敗!?
次回、ペットは非常食!?




