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蒼焔の魔女 ~ 幼女強い 【感謝! 8000万PV・書籍版第3巻発売&コミカライズ、もうすぐです!】  作者: 一 二三


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精霊種 ㊶

「しかし、どうしたものか。時間が掛かりそうだな」

 仄かな星明かりの下で、シルエットに近いお母様が木々の上に顔を覗かせたばかりの月を見上げた。

 私も釣られて月を見上げる。


 あの月光が囲いの底へ届くにもまだまだ時間が掛かるだろう。

 お母様の声に焦りや苛立ちのようなものは含まれていないけど、お母様は迂遠な物言いを嫌い、即断即決を尊ぶ人だ。

 それはお母様が短気という意味ではなく、“兵は拙速を尊ぶ”という先手必勝の精神から来るもので、自然観察からは対極に在る考え方だからなんだよね。


 一瞬の判断次第で失われる人命の数が変化する戦場で多くの命を生かしてきたお母様の方法論は正しいと思うし、お母様の忍耐力を信じてはいるけど、自然に任せて結果を観測する場では一抹の不安を覚えてしまうのも無理はないんじゃないかな。

 そんな私の不安を知ってか知らずか、お母様を宥めるようにレイクスさんが穏やかに言う。


「交代で仮眠を取りながら、ゆっくり観察するしかないだろうね」

「やはり、そうなるか」

 納得したお母様はそれ以上のことを言うつもりはないようで、アッサリと受け入れる。


 比較的展開が早い部類の天体観測でも、自然観察では数時間待つなんてことは当たり前に起こることで、焦ったり苛立ったりしたところで何も始まらない。

 “待つ”のが自然観察だからだ。

 じゃあ、そんなときどうすんの? といえば相場は決まっている。


「毛布を持ってきますか?」

「朝方まで観測を続けるのでなければ必要あるまい?」

「毛布に包まっていると、いざというときに動きを阻害されますしね」

 自称・常識人枠のマキアナさんがお母様に判断を問い、首を傾げたお母様の判断にエゼリアさんが同調する。

 ところが、軍人と軍人の家族ばかりに囲まれてきた私は何の疑問も感じなかったけど、平和な日本で暮らしてきた一児の父親は違う判断をしたようだ。


「とはいえ、子供たちに風邪をひかせるわけにも行かねえだろ」

「私が調達して参ります」

「そうだな。頼む」

 テツさんの指摘にマーシュさんが申し出て、お母様がアッサリと前言を撤回した。


 そういえば、日本的判断だとそうなるよね。

 ルナリアを背負っていて背中がポカポカしている私も、ウォーレス領の感覚に馴染みきっていて疑問を覚えなかったよ。

 気持ち良くスピーっと寝息を立てているルナリアが体を冷やして風邪をひいたら後悔するところだった。

 闇の中へ掻き消えるように姿を消したマーシュさんが、毛布を抱えて数分間で戻って来た。


「フィオレ。何か変化が有ったら起こしてやるから、お前も仮眠を取っておけ」

「・・・はーい。ケイナちゃんも一緒に仮眠しよう」

 ケイナちゃんに声を掛けつつ大きく揺らさないようにルナリアを背中から下ろし、手摺りに背中をもたせかける。

 転げて倒れないように隣へ私も腰を下ろしてルナリアの上体を支える。


「でも・・・」

 声を掛けられたケイナちゃんが逡巡を見せた。

 ケイナちゃんが目を向けた先に居るのはテツさんだ。

 たぶん、相棒意識が強いんだろうな。

 自分だけが仮眠を取ることに気まずさを感じるのかも知れないけど、こんなの野営時の見張りと同じようなものだからね?


「・・・相手は魔獣だし、寝られるときに寝ておくのも体力温存のためだよ」

「そうしとけ。ちゃんと起こしてやるから」

 言い聞かせるようにテツさんが仮眠を勧め、レイクスさんが宥めるように同調する。


「ケイナたちは僕らが守るから安心して良いよ」

「分かりました」

 信頼する2人に諭されて承諾を返したケイナちゃんを手招くと、ルナリアを挟んだ反対側に腰を下ろした。


 並んで手摺りに背中を預けた私たち3人の上からマーシュさんが毛布を被せてくれる。

 うむ。暖かいね。

 いくら温暖な王国の気候でも、夜は冷えるものなんだなと再確認させられた。


「・・・お兄様もどうですか?」

「ん? 僕は良いよ。変化を見逃したくない」

「・・・そうですか」

 誘ってみたけど、一瞬こちらへ顔を向けたアスクレーくんは穴底を覗く作業に戻ってしまった。


 「笹食ってる場合じゃねえ!」と障害物を跳び越える白黒の熊を思わせる清々しさだった。

 本当に魔獣が好き―――、いや。別に好きなんじゃなく知識欲かな?

 自分の興味に正直なアスクレーくんらしい反応なのだろう。


 決してフラれたわけじゃないと思っておこう。

 1日で一番冷え込む夜明け前の時間帯になるまでは心配ないと言ったお母様の判断もまた正しいのだと信じる。

 とはいえ、対策は考えておくべきかなぁ。


「・・・うーん」

「どうしたんですか?」

「・・・いやあ。暖かくしつつ動ける装備は必要かな、と思って」

 私たちと一緒に首まで毛布に包まっているケイナちゃんに考えを伝える。


 毛布を被っていては緊急時に動きを阻害されるというエゼリアさんの意見も正しいとは思うけど、体を冷やさせず兵員の体調を維持するのも戦略として正しいんじゃないだろうか。

 戦場だけでなく、ケイナちゃんたちのような冒険者にも同じことが言えるはずだ。

 野営には交代制の見張り当番が付きもので、見張りだから寒くても我慢しろ、というのも戦略的に間違っているように思う。


 “着る寝袋”―――、いや。“着る毛布”でも作るか?

 “着る寝袋”を着て歩いているお母様を想像しかけて脳内イメージ映像を毛布に修正する。

 笑ったら叱られそうだしね。


 

精霊種㊶です。


ちょっと通りますよ!?

次回、月光!?

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― 新着の感想 ―
昔、広告か何かで見たなぁ。寝袋から足だけ出てて「いざとゆうとき歩けます!」って謳い文句だったけど、その前にどうやって起きるんだよってツッコんだ記憶がある。
「兵は神速を尊ぶ」もしくは「兵は拙速を聞く」ですよ?
フィオレが間違えて覚えた設定でもいいのですが、「兵は拙速を尊ぶ」は明らかな誤用で正しくは「時に兵は巧緻よりも拙速を尊ぶ」です。 「作戦に時間をかける(巧緻)より何も考えずとりあえず行動(拙速)したほう…
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