精霊種 ㊷
「フィオレ様。起きてください」
「・・・んにゅ? あ。ハイ」
肩を揺すられ、レヴィアさんの声に意識を浮上させながら返事する。
ねむー・・・。
頭の芯がボーッとして働かない。
「変化が有ります」
「・・・・・・変化? ―――ハッ。変化!」
レヴィアさんが口にした言葉がジワジワと脳に染み込んで、意味を理解した途端、一瞬で脳が覚醒する。
「ケイナ様も起きてください」
「ん・・・。はぁい」
少しだけ離れた場所から眠そうなケイナちゃんの声が聞こえてくる。
ケイナちゃんと私の間に鎮座している湯たんぽみたいに暖かい物体はルナリアだ。
「・・・ルナリア! 起きて!」
ケイナちゃんと私の間に挟まれているルナリアの肩を揺するけど、されるがままに揺らされているルナリアは、スピーっと気持ち良さそうな寝息を立てるだけで反応を返さない。
「寝かせたままにしておきましょうか?」
「・・・いや。大丈夫」
レヴィアさんの窺う声に断固とした否定を返す。
何のこれしき。
一度寝たら朝まで起きないのがルナリアだけど、ルナリアマイスターの私に不可能はない。
今、私はルナリアと肩を並べて座っている体勢だ。
肩を抱くように首の後ろへ腕を回し、俯いているルナリアの顔を上げさせる。
「・・・スネエエエ―――ク!」
スニーキングした“眼帯のオジサン”が密かに敵兵を始末するように、首に回した方の手でルナリアの口を塞いで、空いた方の手でルナリアの脇腹をガシッと鷲掴みにする。
脇腹が敏感なルナリアの体にビクーン! と力が入った。
「フグッ!? んんん~!! んんんん~!!」
口を塞いだ私の手に両手を掛けてジタバタとルナリアが悶えているけど、睡魔の息の根を止めるまでは解放しない。
毎朝、ルナリアを起こしてる脇腹攻撃の変則バージョンだけど、いつもと違って口を塞がれているルナリアは悲鳴を上げることも大声で笑うことも出来ない。
仕事人は静かに、隠密に、そして速やかに睡魔を暗殺するのだ。
ここか? 反対側の脇腹も必要か?
ワキワキと鷲掴みしている指を蠢かせれば、ルナリアの体がビックンビックンと跳び跳ねる。
目覚めよ! ルナリア! 観察の時は来たり!!
睡魔退散!! 喝―――ッ!!
力尽きたルナリアがグッタリしかけたので手を離す。
「・・・起きた?」
「起きたわよ・・・」
荒くなった呼吸と共に脱力した声が返ってきた。
おや? グッタリするまで降伏を認めず攻撃を続行すれば怒られないんだな。
反撃が来るものだと身構えていたけど、肩で息をしているルナリアはヤラレた感を全身に纏った女の子座りでキャットウォークに力無く両手を突いたまま。
人類はまた1つ大いなる叡智の一端を得てしまったようだ。
「・・・シカに変化が有るって」
「ほんと!?」
毛布を撥ね除けたルナリアが立ち上がり、回れ右して囲いの底を覗き込みに掛かる。
サッと腕を伸ばしたレヴィアさんがルナリアのパンツの後ろ腰を掴んだから、身を乗り出しても囲いの中へ転落することはないだろう。
ルナリアの向こう側へと目を向ければ、ケイナちゃんも囲いの底を覗き込んでいる。
頭上を見上げれば満天の星空に真ん丸な月が浮いていて、数時間の仮眠を取っていたのだと状況を認識した。
私も囲いの内側を覗き込めば、月光が穴ぼこの底まで届いている。
だがしかし、目を引くのは月光が届いた地上でもシカでもない。
炭酸水の中程に生まれ出た二酸化炭素の気泡のように、宙空に湧き出した光の粒がフワフワと漂っている。
「あの光って」
「・・・ご祈祷のときに見た光だよね」
「あれが・・・」
森の奥で暮らしていたケイナちゃんも初めて見るのか。
光の粒をキラキラした目で追っているルナリアの呟きに答えれば、ケイナちゃんもまた感動を含んだ呟きを漏らしていた。
2人と一緒になって感動できる純粋さが私に有れば良いんだけど、ところがどっこい、生きるか死ぬかのボーダーラインで獲物の命を奪い続けて育った私という人間は、そんなに純粋には出来てない。
「・・・ふむ」
こうして魔獣の居る囲いの中で湧き出すってことは、あの光の粒が“死者の魂”って線はなくなったよね?
じゃあ、アレは何?
だいたいの予想は付くから答えを出して貰おうかな。
「・・・レイクスさん。あの光を“視て”貰えないかな?」
「アレをかい? 良いとも」
声を掛ければ、特別な目を持つレイクスさんが“視て”くれる。
「なるほど。アレは“魔素”だね。かなり濃いよ」
「・・・ありがとうございます」
やっぱりか。
精霊種㊷です。
ビッグボス!?
次回、真相!?




