精霊種 ㉞
「人手は何とかなりそうだ」
「うーむ・・・。本当に一人前の職人は要らねえってのか。恐ろしいことを考えやがるな」
工場制がもたらす効率性に苦笑するレイクスさんとは対照的に、師弟制を棄てきれないらしいロブウッドさんが渋面で首を振る。
愛娘のリットちゃんという弟子を抱えているお父さんとしては、複雑というか受け入れ難い部分も有るのだろうけど、身内は身内、従業員は従業員で分けて考えるべきだよ。
何より、必要を満たしつつ機密を保持するために割り切るべきだ。
全体を知る人数を少なく絞っても、必要な専門技術を持つ人たちがチームに揃えば技術は継承される。
もちろん、ロブウッドさんが言うように一人前の職人を育てるには長い月日が必要になるだろう。
でも、100の技術を1人に教え込むよりも、10の技術を10人に教え込む方が職人を育てる時間も短くて済むんだから、常に複数のスペアを育てて置いた方が技術の継承は確実になるんだよ。
そうじゃないと先細りして技術の継承が絶えちゃう。
今のウォーレス領のように人が増えて色々な仕事が増えると、生業としての選択肢そのものが増える。
人間関係なんて往々にして親子でも破綻することがあるぐらい脆いものだからね。
他人の子供を弟子に取る以上、実子を弟子にするよりも破綻の可能性は高くなる。
他にも人生の選択肢が有るなら、もっとだ。
弟子が師匠の元を離れて“他所へ逃げる”ということは、“技術を盗まれた”に等しい。
だからこそ、師匠側も割り切りの必要性が高くなるんだよ。
分業制の仕組みを知ったのなら、割り切りが必要になることなんてロブウッドさんも理解はしているんだろう。
伝統を受け継ぐ職人は保守的なものだからね。
頭では理解しても心が受け入れない。
たぶん、ロブウッドさんが受け入れを渋っているのは、伝統の信奉と変化への恐れなんじゃないかな。
ロブウッドさんにも受け入れて貰うために言葉を重ねて必要性を訴える。
「・・・戦争に勝つための道具を作るんだよ? 技術を盗まれたら勝てなくなるじゃん。みんなを守るための道具なんだから盗ませないよ」
「徹底してんなぁ」
私の主張にロブウッドさんも苦笑する。
ロブウッドさんのいう「徹底」が、「戦争に勝つため」を指しているのか、「盗ませない」を指すのかは分からないけど、その評価は間違ってるよ。
「・・・私なんて、まだまだだよ」
「「「「「ええ・・・?」」」」」
車座のあちこちから疑念の声が上がるけど、首を振って否定する。
「・・・事実だよ。私が持っている知識は食料を得るためのもので、ワナの知識が防衛にも使えるってだけだもの。魔法の技術は学んでいても魔法道具については基礎知識も持っていないからね。どう技術を守れば良いのかさえ分からない」
私が採ろうとしているのは“物理的な分断”で、細かな機微が分からないから、力尽くで情報の統合を妨げる手段だ。
見る人が見れば、根っこの部分で“人を信用していない乱暴な手法”だと看破されるだろう。
実際、分断がもたらす“人の繋がりの希薄化”は組織を脆くする。
最初から分断しているのだから組織的防衛が難しくなるんだよ。
ウォーレス血統のような一枚岩の団結は望むべくもなくなる。
それが分かっていても、人間が増えて地域社会全体が膨れ上がるのだから、情報漏洩を避けるためには割り切るしかない。
レイクスさんが納得顔で頷く。
「それで“分割統治”なんだね」
「・・・盗まれないようにする方法を他に思い付かなかったんですよ」
今さらだけど、組織運営や防諜手段なんかの知識も学んでおけば良かった。
ネット上に埋もれている論文や記事の1つでも読んでおけば、参考にできるものは有ったはず。
まさか熊に食われて異世界へ来ることになるなんて考えてもみなかったから、私の頭の中には最期の最期まで食べ物のことしかなかったしね。
ほんと、“三つ子の魂、百まで”とはよく言ったものだよ。
自嘲する私にレイクスさんは首を振る。
「テツも言っていたけど、そっちは僕らに任せて貰えないかな」
「・・・良いんですか?」
レイクスさんの申し出にテツさんも頷いて同調を示す。
「言っただろ? 一蓮托生だからな。そりゃあ構わねえんだが、魔法道具を戦場に持ち込んで敵に鹵獲されると不味くねえか?」
「・・・それなんだよ。分解すると爆発したりの仕掛けは作れないかな」
鹵獲からの”反転工学”で技術発展を遂げてダントツの覇権国家に伸し上がった国の存在を、地球の知識を持つ私たちは知っている。
テツさんの念頭に有るのも、派手なシルクハットのオジサンで風刺される軍事超大国の名前だろう。
圧倒的な工業力と資源力を持つ例の国は、大戦初期には戦略思想の違いから遅れていた兵器製造技術を、参戦後の僅かな期間で、追い付き、追い越し、最先端にまで押し上げた。
その中核に有ったのが、寛容な亡命者の受け入れとリバースエンジニアリングだよ。
戦利品好きの国民性と規律の緩さで多くの鹵獲品を持ち帰ったあの国は、その膨大な鹵獲品の中から貪欲に多くの先端技術を学び取った。
アレをやられると困るんだよねぇ。
「自爆装置かぁ。必要だとは思うが、爆弾の概念から教えねえと無理じゃね?」
テツさんが具体的な対抗策と問題点を挙げた。
私はブービートラップのつもりで言ったんだけどなぁ。
同じものを想像したはずなのに、私とテツさんでは違う答えになるらしい。
さすがは日本のサブカルチャーを知る現代日本人。
普通、「自爆装置」なんて発想、スルッと出て来ないでしょ。
精霊種㉞です。
反転工学!
次回、頑固オジサン!?




