精霊種 ㉗
「ヒト族だけでなく獣人族に憑くことも少なかったそうですよ。ドワーフ族に憑くことはそこまで珍しくなかったとも聞いています」
「・・・むむっ。ドワーフ族には憑くんだ・・・? なんでヒト族や獣人族には憑かないんだろう?」
正直、存在を信じず敬うことのないヒト族に精霊が憑かないっていうのは、“だろうね”って思いがある。
でも獣人族は、神教会のヒト族至上主義のせいで、異世界由来の神を信仰して精霊信仰を捨てた西方諸国にはほとんど残っていないはずで、逆説的に精霊信仰が残った地域にこそ獣人族の居住地域だと言える。
なのに、精霊は獣人族に憑かないというのは納得がいかないものが有る。
それを言ったら、精霊信仰地域にも神教会勢力地域にも広く棲んでいるヒト族に精霊が憑かないのも説明が付かないのかな?
だとすれば、私の理解が間違っている可能性が高いな。
私が感じている認識の齟齬に対する答えはレイクスさんからもたらされた。
「それは僕らが“精霊種”だから、だろうね」
「・・・精霊種? どこかで聞いたことが―――、あっ。龍種か」
確か授業でチラッと単語が出たはず。
重要だと思っていなかったから深掘りして質問しなかったけど、こんなところで出てくるとは。聞き慣れない単語なんだから質問しておけば良かった、と悔やんでいる私にレイクスさんは感心した目を向けてくる。
「そんなの、よく知ってたね」
「・・・お母様とお婆様から教わりました。ただ、単語として聞いただけで、その精霊種がどういうものかまでは知りません」
正直に「よく知らない」と白状しているのに、レイクスさんは感心の色を強める。
「へぇ~。凄いね。僕らも意識しているわけでは無いから、ことさら口に出すことなんて無い言葉なのに、そんなの知ってるヒト族の話なんて初めて聞いたよ」
「・・・お母様たちは統一国家以前の文献や書物も読んだことが有るそうですから」
分かってるね!
レイクスさんの賞賛が向いているのはお母様たちだと察して嬉しくなる。
聞き囓りの中途半端な知識しか持たない自分を褒められるよりも、お母様たちを褒められる方がメッチャ嬉しい。
目を細めたレイクスさんが小さく頷く。
「それは尊敬に値することだよ。知識は後世に繋いでこそ発達するものだし、活かしてこそ意味が有るものだからね。先ずは蓄えられた父祖の知恵を知って受け継ぐことが重要だし、その知識の断片をキミが活かせているのなら、それは誇るべきものだ」
私も褒められているっぽいけど、お母様たちだ。
お母様たちはすごいんだからね。
私としてはお母様たちをもっと褒めて欲しい。
「・・・そりゃあもう、お母様もお婆様も王国で一番の知識人と言われていますからね」
「そうなんだ? ゆっくり話してみたいなぁ」
私のお母様たち推しにレイクスさんの興味がお母様たちに移る。
そうそう。お母様たちを讃えよ!
私は目の前のことに対処するだけで手一杯だけど、お母様たちとレイクスさんたちが交流を深めて知識を共有すれば、知識の蓄積や継承も私がいい加減に片付けるよりも捗るはず。
とはいえ、お母様たちを推した私も知っておかないと後で叱られる恐れが有る。
「・・・お母様たちも喜ぶと思いますよ。それはそうと、“精霊種”ってどういうものなんですか?」
「言葉から想像できる通り、精霊種は“精霊に近いもの”と言われている。そうは言われても僕らは肉体を持つ普通の人間だし、精霊とは全く違うけどね」
肩を竦めるレイクスさんも伝聞だよね。
仕草からもレイクスさんに実感がないことが察せられる。
レイクスさんは最初に「僕らは」と言ったよね。
そのニュアンスにはエルフ族だけでなく龍種もドワーフ族も含まれているのだろう。
その分類の根拠って、何?
「・・・何をもって“精霊に近い”と定義するんでしょう?」
「これは僕の推測だけど、“魔素との親和性”かなぁ。大昔のエルフ族が遺した古い文献に記述が有るだけで、根拠を示す当時の研究資料が残っているわけでもなかったらしくてね。伝承に過ぎないからどこまで本当のことかは分からないけど、龍種なんてその存在自体が半ば精霊だとも伝わっているよ」
伝承かぁ。
信憑性が有るようで薄いかも。
身体的に「精霊に近い」実感がなくて、論拠が伝承なら、レイクスさん自身が伝承をあんまり信じていなさそうなのも理解できる。
日本にも“日本人は天孫降臨から連なる神の子孫”という論説が有ったしね。
その論説も拡大解釈されて広まった部分が有って、元々の論説は“天皇家初代の神武天皇が神の子孫で、おおよそ2600年前には日本に棲む人の数は少なかったのに現代日本人は1億人以上もいるのだから、天皇家の血筋と交わって数を増やした日本人には神の子孫が多くいる!”ってものだったと思う。
戦争に絡んでの国威発揚を目指したプロパガンダっぽい背景も論説が出てきた当時には有ったんじゃないかと推測するけど、「日本人は神の子孫だ!」なんて論説を信じている現代日本人がどれだけいるだろう?
「俺たちゃ精霊の仲間だぜ!」と伝承に有っても、「へー。そうなの?」って感じにならない?
レイクスさんの態度は、そういうことじゃないかな。
「魔素との親和性」というレイクスさんの具体的な推論の方が信憑性は高いように思えるよね。
何をもって「親和性が高い」とするのか?
実際に、「魔素の塊」と評される精霊が憑いてるじゃん。
憑くってことは親和性が高いんだろう。
そんなことよりもだ。
ちょっと問題かも。
「・・・むー。半分、精霊なんだ」
「どうしたの?」
問題点に気付いて独りごちているとレイクスさんからツッコミが入った。
精霊種㉗です。
エピソードタイトル回収!
次回、共食い!?




