精霊種 ㉖
ただ、レイクスさんたちはウォーレス領に籠もりっ放しになるわけじゃなく、王都と森とウォーレス領の間を冒険者として行き来するんだよね?
信頼感が円滑な人間関係を円滑にするというのなら、真っ先に信頼するべきは私ではなく他領にも睨みを利かせられるお母様だ。
事実上のピーシス領の支配者であるだけでなく、お母様は主家のウォーレス領においても絶大な信用が有るし、王家に対する発言力も持っている。
有象無象が跋扈する王宮に対しても、後ろ盾として抑止力になるのは間違いなくお母様だ。
お母様と私では、積み上げてきた信用と実績が天と地ほど違うもの。
生粋の貴族だし強引なところもあるから取っ付きにくいかも知れないけど、お母様は王国内において最上級に偉い人なんだから、仲良くしておくなら私よりもお母様の方が色々な面で融通が利く。
多少の無理押しをしてでも身を守る必要が有るレイクスさんたちは、特にだ。
そんなわけで、少し売り込んでおこうかな。
「・・・お母様も、私と出会うもっと前から無詠唱で魔法を使っていましたよ?」
「お母様ってのは、“白焔の魔女”だろう? 大陸一と噂されるだけ有るな」
売り込むつもりでレイクスさんの感想に引き続いて答えたつもりだったけど、私のお母様自慢に答えを返してきたのは他国出身の髭モジャなドワーフオジサンだった。
「・・・お母様のこと知ってたんだ?」
「そりゃあ大陸中に聞こえるほど高名な魔法術師なんだからよ。名前を訊いたことぐらいは有らぁな」
分かってるなら、ヨシ。
レイクスさんも感心した顔で頷いている。
何だ。売り込みには成功してるじゃん。
違うか。売り込むまでもなかったのかも。
「・・・そっかそっか」
「自分を褒められるよりも嬉しそうだな?」
私が満足していると、よく分からん、とでも言いたげにロブウッドさんが首を捻る。
「・・・当然じゃん。お母様は凄いんだから」
「嬢ちゃんも大概だと思うがなぁ」
謙遜だと思われているのかロブウッドさんが呆れ顔でぼやく。
褒めて貰って嬉しくないのかと言えば、そんなことはないよ?
だとしても、素直に喜んで良いのか迷う部分が有りすぎる。
「・・・私なんてまだまだだよ。やらかしてばかりだし」
誇って良い部分は有るのだろうけど、他領にまで迷惑を掛ける失敗も有ったし、王都でも大惨事を引き起こしかけた。
何とか湖とか名前が付いたらしい大穴も領主であるポドックさんが喜んでくれたのは結果論に過ぎないし、王都での件はお母様に守って貰えただけだ。
プラスマイナスで足し引きすれば、プラスでは有るのだろう。
でも、私という人間がすごく歪で足りないところだらけな現実は、私自身が一番理解している。
至らない自分を反省していると、私の言う「まだまだ」が何のことかに思い至ったらしいケイナちゃんがポンと手を打った。
「ああ。フィオレ池とか?」
「・・・くっ。そんなことも有ったかな」
他にも有った事実を指摘されると、自省するよりも刺さるね。
まあ良いや。ケイナちゃんにも訊きたいことが有ったし話題を変えよう。
「・・・ところで、精霊術式って詠唱術式なんかとはどう違うの? “お願いするだけ”って言ってたけど、長所や短所は有るのかな」
「術式の構築や発動は精霊が肩代わりしてくれますから、精霊にお願いした方が効果は大きいですね。ただ、精霊によっては上手く伝わらなかったり伝わりすぎたりで、強弱の調整が難しかったりすることが有ります」
精霊という第三者が介在するから加減が難しいって意味で良いのかな?
人間同士でも、人を使って仕事を頼むと思い通りに意図が伝わらなかったりするしね。
神霊のような存在への”お願い”が正確に伝わらない、というのは納得できる。
「・・・へぇ~。精霊にお願いした方が効果が大きくなるのって、どうしてなんだろ」
「精霊は魔素そのものですから。魔素を扱うことにかけては精霊に勝る者は居ないと思いますよ」
何、ソレ?
いやまあ、言わんとしている意味は分かるよ?
「・・・精霊って本当に魔素なんだ?」
「先日、兄様も仰っていましたが、“魔素が自我を持ったもの”だと言われているのは確かですね」
前に1度聞いているから、それほど衝撃は受けないけど、それでも驚きは有る。
だってさあ。思ってたのと違う。
いや。違わないのか?
「・・・不思議生物・・・。いや、生物?」
「生物どうかは分かりませんが、意志を持っていることだけは確かですよ」
精“霊”っていうぐらいだから“霊的なナニカ”ってイメージを抱いてたんだけど、ちょっとニュアンスが違うかも。
何となく意思の疎通が出来る野良猫的な・・・?
「・・・私やルナリアやお母様に精霊が憑いてるって言ったよね? なんで私たちを選んだんだろう?」
「さぁ? 体内の魔素量だけで憑くわけでは無さそうですから、精霊にとって居心地が良いかどうかじゃないでしょうか」
エルフ族でもよく分からない存在なのか。
やっぱり、すごく生物的な感じだよね。
「・・・居心地かぁ。ヒト族に憑いた例って珍しくはないの?」
「昔もそう多くはなかったそうですから、珍しくは有ったのでしょうね」
「・・・やっぱり珍しかったんだ」
そんな感じの話は授業で聞いたはず。
エルフ族のイメージ的なものか凄く納得感がある、などと頷いていたらケイナちゃんが意外なこと言い出した。
精霊種㉖です。
UMA! UMA! UMA!(そうじゃない
次回、精霊種!?




