精霊種 ㉕
「古代文字っていうのは、ヒト族が好んで使う詠唱術式の呪文のようなものだよ。古代文字の組み合わせと順序で術式が発動する。形式としては魔方陣術式と似たようなものだけど、大きく違うのは、刻印術式だと術式の効果が永続するのさ。金属や石材や木材に経路を刻む必要が有るから複雑な構造の術式には向かないのが刻印術式の難点だね」
仕切りが長いな!
レイクスさんの解説は、他系統の魔法術式にも及んだ。
立て板に水でスラスラと説明してくれるから、付いていくだけでも大変だよ。
お母様からも聞いたことが有る系統ごとの長所短所だけど、内容はさらに深掘りされたものだ。
この話、お母様とお婆様にも聞かせてあげたい!
魔法道具を作れる人の理論だよ?
お母様たち、どこ行ったんだろう?
姿が見えないから、岩塩鉱脈を見に行ったまま戻って来ていなさそう。
でも今は、話の腰を折るよりも、もうちょっと聞きたい。
良いや。進めちゃえ。
「・・・魔方陣術式の方が複雑な構造が作れるのですか」
「そうだよ。ただし、複雑な構造を築こうとすれば描く魔方陣が大きくなりすぎて動かせなくなるし、経路を描く塗料には魔素の通りが良い素材を用いる必要が有る。塗料に混ぜ込むだけでは素材が定着できないし、魔素が通ることで直ぐに経路が崩壊するからね。魔方陣術式は長期間維持するのが難しい」
ほーう! そうなんだ!
「動かせなくなる」っていうのは紙には描けない大きさの魔方陣になるからかな?
「経路」っていうのは、電子基板なんかで言うところの「回路」だと理解した。
魔方陣を描いても塗料だと保たないから、刻印で回路を刻むってことだよね。
初めて聞く魔法道具の―――、刻印魔法の作り方にワクワクが止まらない。
今までに教わったことと重複した部分も有るけど、差違の部分も興味深い。
技術的な説明はよく分かんないけど分かる人が聞けば分かるんだろう。
「・・・経路を小さくまとめて長期間維持するには刻印術式が向くと。そんな違いが有るんですね」
「“一長一短”ってヤツだね。ちなみに、瞬間的な効果の強さと発動の早さに優れるのが詠唱術式だよ。キミは想像力で呪文の構築そのものを省略しちゃっているみたいだけど、それを実現するには想像力で補えるだけの突出した才能が必要になると思うよ」
んん? 呪文を構築? 省略? 突出した才能?
詠唱行使のことだよね?
イマイチ頭に入って来ないけど、特殊なことのように言われたことだけは分かる。
そうかなぁ?
「・・・結構、誰にでも教え込めていますけど?」
「そうなの!?」
事実を告げただけなのに、目を剥いたレイクスさんがバッと私を二度見する。
「・・・そんなに驚くようなことですか?」
「そりゃあ驚くよ。詠唱術式って、術式の効果を想起させる呪文を唱える声に魔素を籠めるんだよ。効果を頭の中で想像するだけでは発動しないし、呪文を唱えるだけでも発動しない。それって、魔素の籠もった言葉と想像力の両方を使って、頭の中で魔方陣に似た経路を擬似的に構築していると言えるんだよ」
ふーん。イメージだけでも詠唱だけでもダメと。
“力だけでも思いだけでもダメ”みたいなフレーズを、アニメのシーンか何かで聞いた気がするな。
“魔力の籠もった言葉”って、やっぱり“言霊”じゃん。
“呪文”―――、“呪い”と“呪い”の言葉はそれぞれ違うものって認識だったけど、“言霊”と考えれば同じものなんだよね。
何とかいう名前も覚えていない胡散臭い宗教学者が、“言霊”を信じることを“未開文化”だとこき下ろしている論文か何かをインターネット上で読んだことが有るけど、そんな宗教学者が持ち上げたい多神教の“真言”だって一神教の“聖句”だって“呪文”で“言霊”じゃん。
“言葉の力”とか言っちゃうと宗教家か何かみたいに聞こえるけど、宗教とは最も縁遠い共産主義の新聞記者だって“ペンの力”とか言ってた。
どれも“力ある言葉”って概念は共通してる。
そんな“言霊”が絵空事ではなく実効性の有る技術として存在しているのが、こっちの世界。
「・・・刻印術式の話に当て嵌めれば、呪文に籠められた魔力が経路で頭の中が古代文字ってことでしょうか」
「少し違うように思うけど、似たような感じでは有るのだろうね。その経路を省いて頭の中で完結させちゃうんだから、当然、術式の構築は難しくなるし、呪文が想像力の不足を補ってくれないんだから、発動する効果を正確に想像するのって難しくない?」
ふむふむ。「呪文が想像力の不足を補う」か。
自分がしていることを分解して指摘されると、なんで出来てるんだろう? と思う部分も有るけど、その答えを私は見つけ出してしまっている。
「・・・フワッとした想像では難しいでしょうね」
「じゃあ、どうやって教えてるの?」
知られちゃ拙い人たちの手前、“科学反応”だとか“プロセス”だとか“物理法則”だとか口走らないように、NGワードを避けて言葉を選ぶ。
「・・・効果が起こる順番、というか、例えば火の術式を使うなら、どうやって火が燃えるかを教えるんです」
「どうやって燃えるか?」
論理で説明しようとするとNGワードが出ちゃいそうだな。
例え話で表現するか。
「・・・魔法を使わなくても火は熾せるでしょう? 火が燃えている姿や、魔法なしに火を熾すときの順番を見せて、実際に触れて覚えさせれば、どうやって火が燃えるかを理解できます。火を理解できれば、呪文なしでも魔法は発動します」
お手本を見せて、論理を教え、実験させる。
日本が誇る五十六方式の人材教育論だけど、これは実験教室の方法論でもある。
「うーむ。凄え嬢ちゃんだな」
「本当にね。よく、そんな方法を思い付いたものだよ」
そういう教育を受けて来たってだけで、私が思い付いたわけでも偉いわけでもないんだけどね。
信じる気になってくれてるんだから結果オーライで良いだろう。
精霊種㉕です。
系統の違い!
次回、不思議生物!?




