精霊種 ㉔
「理屈は通ってるな。俺にはサッパリ分かんねえが」
「・・・そんなことないでしょ。胸の中に有る熱は分かるんだよね?」
「む。それは・・・そうだな」
ツッコミを入れればテツさんが口籠もる。
なに言ってんの。
自分には出来ないと諦めるのは、どうしようもない具体的な原因が分かってからにしてくれるかな。
そう簡単に諦めさせないよ。
「“質”の違いが分かれば、扉を開ける鍵を手に入れたってことか?」
「・・・まだだよ。それは鍵の形が分かっただけで、合鍵を作れていないからね。まだ扉は開かない」
実に職人気質らしい、打開策を急ぐロブウッドさんの早計さに釘を刺す。
私の言葉の意味を吟味したレイクスさんが首を傾げた。
「合鍵を作る?」
「・・・そう。魔石に無理やり干渉しようとしても拒絶されるのは鍵が掛かっているから。だったら合鍵を作れば良いんだよ」
これがお待ちかねの打開策だよ。
答えを示されたレイクスさんが思考する様子を見せて、再び顔を上げた。
「魔素で合鍵を作るってことは、魔石の魔素に自分の魔素を似せれば良いのかな?」
「・・・正解。技術者は理解が早いですね」
方法論が分かっていて、ゴールラインが見えていれば、後は試行錯誤と感覚を覚える微調整だ。
レイクスさんが感動したように息を吐く。
「魔素の“質”を似せれば魔石の―――、他者の魔素に干渉できるのか。そんなこと考えたこともなかったよ」
「・・・魔法道具だと、どうやって魔石の魔力に干渉するんですか?」
これって、前々から疑問に思っていたことなんだよね。
私が魔石の魔力を使う場合、私の魔力を魔石側に似せて、内部に潜り込ませてから膨らませて押し出すんだよ。
1の魔力で100の魔力を魔石から押し出す感じ。
押し出す圧力が掛かっていないのに、どうして魔石の中から魔力を取り出せるのか、不思議で仕方なかった。
「魔素の通りが良い素材と接触させて吸い出しているだけさ。だから、魔法道具では魔石が内包している魔素を全て使い切ることは出来ないんだよ。今の鍵の話に当て嵌めれば、干渉しているとは言えないんじゃないかな」
レイクスさんから返ってきた答えは具体的なようで、イマイチ分かりにくいものだ。
「・・・魔石の外側から吸い出すことなんて可能なんですか? いやまあ、可能だから魔法道具が実在しているのでしょうが、上手く想像できないんですよね」
毛細管現象みたいな?
いやいや。実体のない魔力で毛細管現象なんて起こらないでしょ。
そこでレイクスさんが返してきたのは、初めて聞く意外な答えだった。
「魔石って、放置しておくと徐々に力を失っていくことは知ってる?」
「・・・いいえ。少しずつ魔力を放出しているんですか?」
マジで?
魔力を絞り尽くされて空っぽになった魔石がどうなるかなんて考えたことなかったよ。
「そうだよ。放出というか、拡散かな。体外に放出した魔素って、直ぐに拡散しちゃうよね? 魔石というものは、魔獣の体内に溜まった濃密な魔素が固まって石のようになったものだと言われていてね」
「・・・濃度が濃い場所で結晶化するなら、濃度が希薄な場所に置いておくと拡散するというわけですか」
浸透圧? 違うな。
ドライアイスや樟脳―――、タンス防虫剤が蒸発してなくなるような感じだろうか。
昇華性結晶だっけ?
「放出する魔素はごく僅かだから、もの凄く時間は掛かるけどね。完全に魔素を放出しきってしまうと、魔石は実体を保てなくなって消滅するよ」
「・・・そうなのですね。知りませんでした」
じゃあ、スライム畑に埋めた魔石も将来的には魔力を放出しきって消滅しちゃうのか。
そう言えば、スライムは魔石を怖れて近寄らないって言ってたな。
スライムには目鼻もないのに、どうやって魔石の存在を知るのかと不思議に思っていたけど、超常的なシックスセンスなんかで察知しているわけじゃなく、放出される魔力を感知して避けるのかな?
「・・・うーん?」
「どうしたの?」
私の反応が思っていたものとは違ったのか、レイクスさんも一緒になって首を傾げる。
「・・・魔石が放出した僅かな魔力で術式が発動するものかな? と思って。普通に考えれば、僅かな魔力では魔法道具も術式の効果を発動できませんよね?」
「刻印術式っていうのはね。刻印が持つ意味が魔素を消費して現象を起こすのさ。発動した刻印は現象を起こし続けるために周囲の魔素を集めるからね。空気中よりも通りが良い経路を導線で引いてやれば、魔石から無理やり奪う形で魔素を吸い出すことが出来る」
ほうほう? そんな動作原理なのか。
王城での起動実験で、お母様と一緒になって描き出した魔法道具の回路を思い出すよ。
刻印の意味? 回路の方・・・とは考えにくいな。
記号の方かな? 目の前に専門家がいるんだから訊いた方が早いよね。
「・・・経路? あの魔法道具に刻まれている図形は術式ではないんですか?」
「経路は経路さ。ただの導線でしかなくて、術式の効果を生み出すのは古代文字だよ」
「・・・ははぁ。そうなんですね」
やっぱり記号か。
エルフ族のいう「古代」って、どのぐらい昔のことなんだろうね?
私たちヒト族のいう“古代文字”とは違うものじゃないだろうか。
旧ピーシス領の領主館で統一国家以前の文献を漁ったときに、エルフ族が使っていた文字には楔形文字のようなものと、魔法道具の回路に刻まれていたものと同じ記号のような文字の2種類が有った。
恐らくは、あの記号のような文字―――、お母様のサーベルにも刻まれている、あの文字がエルフ族のいう「古代文字」なんだろうね。
精霊種㉔です。
魔法道具の動作原理!
次回、一長一短!?




