精霊種 ⑰
ものすごーく、そんな気がしてきたよ。
理屈的にも説明が付きやすいように思うし。
何てったって、地球には魔力も魔法も実在しなかったからね。
いやまあ、地球人だった頃の私が魔力の存在を感知できていなかっただけかも知れないんだけどね?
地球上の生物が肉体的に魔力の存在を感知できないだけって可能性は―――、いいや。それは無いな。
だって、昔の勇者さんは、魔法というか魔力というか、そのどちらかを手にした武器に乗せて戦うことが出来たわけじゃない?
それがハインズお爺様やドネルクさんが得意としている“クツキ”って技術だったはず。
じゃあ、「肉体的に」って線はないよ。
昔の勇者さんも、こっちの世界に来てから魔力の存在を知って、努力を重ねて魔力の扱い方を覚えたんだろう。
むしろ、科学が発達していなくて八百万の神や物の怪が実在すると信じていた戦国時代の方が、現代人よりも魔力や魔法の存在を受け入れやすかったんじゃない?
確認すべきポイントは、“放出”と“掌握”と“信じているか”の3点に絞られたね。
それを解決すれば、テツさんも魔法を使えるようになるはず。
「・・・テツさん―――」
「やっと来た! 見て見て! 本当にバイコーンを飼ってるよ!」
私の声を遮ったレイクスさんの声に、テツさんが囲いの内側を覗き込む。
「どれどれ? ―――おお。マジで居るじゃん」
チッ。レイクスさんの割り込みで話の腰を折られちゃったよ。
まあ良いや。テツさんほどの体内保有魔力量を持っていても魔法を発動できない事例は、新たな魔法術師を育成するときの参考になるだろうし。
たぶん、テツさんは特殊事例だと思うけど、魔法術師になれなかった人の中にも同じ状況で苦しんでいる人が居る可能性もゼロじゃないよね。
テツさんで実験して成果が上がればテツさん自身にも後進にも恩恵が有るはず。
そんなことよりもだ。
レイクスさんに、もの申しておかないといけないことが有る。
「・・・飼ってませんよ? 迷い込んできた個体を囲っておいたら勝手に増えただけです」
「そうなの?」
身を乗り出して熱心に囲いの底を覗き込んでいたレイクスさんが私へ顔を向けてくる。
何でも良いけど、いい歳して子供みたいに落ち着きがないのはどうなんだろう?
転落防止でズボンの後ろ腰をフィティオスさんに掴まれている姿は、魔獣に熱中しているときのアスクレーくんや出荷作業中のルナリアと大差ないよ?
レイクスさんが何歳か知らないけど、アスクレーくんもルナリアも年齢は1桁だからね?
「・・・だって、エサも水も与えていませんし」
「ええ? エサも水も無しに増えるの?」
お? 信じてないな?
誤解されないように念押ししておくか。
「・・・そうですよ?」
「じゃあ、何で生きてるんだろう?」
さあ? 何でだろうね?
レイクスさんが不思議そうに首を傾げている。
「・・・分からないから、観察してみようと前々から話していたんですけど、ずっと忙しくて実行できていなかったんです」
私も一緒になって覗いてみれば、出荷作業も半ばを過ぎた囲いの底にはパッと見でも100頭以下にまで数を減らしたシカたちが彷徨いている。
相変わらず、投げ縄で仲間が吊り上げられても興味を示さないなぁ。
これが普通のシカなら、警戒して興奮するなり、逃げようとパニックを起こすなり、何か反応すると思うんだよね。
魔獣の場合は生態が違うのかも知れないけど、普通のシカとは違う反応だろう。
ようやく信じてくれたらしいレイクスさんが首を傾げる。
「ふぅん・・・? 可能性が有るとすれば、魔素かなぁ」
「・・・魔素? 自然のですか?」
レイクスさんの推論に私の首が傾ぐ。
囲いの中のシカたちは共食いしているわけでもないから、他に考えられるものといえば、森に満ちているという自然の魔力しか思い当たらない。
ご祈祷のときに舞い上がった“魔力と思しき光の粒”は、風に流されるように―――、いや。違うな。吸い寄せられるように森の奥へと漂っていった。
あの光景を目にして、私は“森に満ちている”という自然の魔力の存在に信憑性を感じたんだよ。
「ちょっと視てみようかな」
「・・・お願いします!」
お願いしようかと思ってたんだけど、私から言い出す必要が無くなった。
魔力を視る“特別な目”を発動したらしいレイクスさんが、囲いの底を覗き込んで眉根を寄せる。
抑えられなかったように驚嘆の声を上げた。
「うわぁ・・・。ここって随分と魔素が濃いんだね。迷宮みたいだよ」
「・・・迷宮!? やっぱり!!」
永久にお肉が獲れる! と喜んだのも束の間、レイクスさんが喜ぶ私を止めに来る。
「いやいや。僕も迷宮を“視た”経験は“嘆きの祠”の1度しか無いし、魔素の溜まり方が迷宮に似ているってだけで、ここも迷宮かどうかの確証はないからね?」
「・・・むー」
言ってることは分かるけど、ぬか喜びさせるなんて酷くない?
確かにレイクスさんは「迷宮みたい」と比喩しただけで、迷宮だと断定したわけじゃなかったけど、私が喜んだのも仕方ないと思うよ。
だって、お肉が獲れ続ける環境だと確定すれば調達戦略が大きく変わって、食料事情に影響するのだから必死にもなる。
私がむくれる事情を知らないレイクスさんが、不思議そうに首を傾げた。
「やっぱり、っていうのは?」
「・・・毎日、3分の1ぐらいまで減らしても、翌朝には元に戻ってるんですよ」
「ええ・・・」
質問に答える私に向けてレイクスさんが嫌そうに眉根を寄せる。
一緒になって眉根を寄せたテツさんも首を傾げた。
「元に? リポップしてんのか」
「りぽっぷ、とは?」
連鎖的にケイナちゃんも首を傾げる。
そっちか!
精霊種⑰です。
魔素溜まり!?
次回、日本語教室!?




