再会 ⑫
「ちょっ! フィオレ!?」
エクラーダの名前が出て油断したルナリアの隙を突いて鞍から降りて地面に両足を着く。
慌てるルナリアを見上げて、まあまあと宥める。
「・・・あの人と落ち着いた場所で話したいから領主館へ来るように促すだけだよ」
「わたしも行くわ!」
一瞬、逡巡を見せたルナリアが、即断して自分も鞍から降りようとする。
「お待ちください。ルナリア様が動くと大勢が動くことになります。それでしたら、私が」
ルナリアを制止して同行を申し出てくれたのはミセラさんだ。
周囲には多くの慰霊碑見物人たちが居るし、敵が紛れている可能性もゼロでは無い。
代わりを用意しようと思えば用意できる私と違って、ウォーレス家の正式な血統を引き継ぐルナリアに代わりはいない。
どんな敵でも返り討ちに出来るお母様なら反論できただろうけど、まだまだ無敵の強者とは言い難いルナリアには護衛が必要だからね。
たかが人を呼びに行くだけで大将格のルナリアに軽々しく動いて貰っては周りが困る。
“それを言ったらお前も同じじゃん”と思うかも知れないけど、相手が旧エクラーダ王国民であるならば、私ほど要求に強制力を持たせられる人間はいないんだよ。
その要求だって、校舎裏―――、ゲフンゲフン。“ちょっと署まで同行を”といった程度のものだし。
念のため、ミセラさんが付き合うと言ってくれている以上、ルナリアが動いて良い理由はなくなっている。
どうしようもなく反論できないド正論に、ルナリアが「むっ」と言葉を詰まらせた。
「仕方ないわね・・・。ミセラ、任せたわよ!」
「はっ」
スカートの裾をはためかせてフワリと地面に着地したミセラさんが、ルナリアの命令に敬礼で応える。
鞍から飛び降りたときでも着地音がしないんだな。
ミセラさんたちは反重力装置でも内蔵してるんじゃないだろうか。
草地の上でも足音がしないミセラさんを伴って、エバンさんたちの下へ近付いて行く。
「あ。フィオレ様! ―――配置を離れて勝手な真似を」
「・・・良いよ良いよ。”私も話したいと思ってたところを引き留めに走ってくれた”んだから、お咎めは無しで」
我に返ったエバンさんに大義名分を与えて宥めておく。
アスクレーくんの許可無しに飛びだして来たんかい! と思ったけど、正騎士ともあろう者が主の許可を得るなんて基本中の基本を忘れるぐらい衝動的に飛び出しちゃったんだろうね。
元同僚っぽいことは察しが付いているし、生死不明で逃れてきた事情を斟酌して、アスクレーくんやジアンさんには私が取りなしてあげよう。
「オルレーシア様? ―――いや。そんなわけが・・・。もしや、フレーリア王女殿下?」
呟きが耳に届いて目を向けると、獣人族のオジサンが呆然と目を見開いて私を見下ろしていた。
近くで見ても、やっぱりライオンっぽいな。
こっちはこっちで、我を忘れるほど驚いているっぽい。
フレーリアじゃなくオルレーシア様と間違えられたのは初めてのパターンだな。
パターンが違う理由も気になるけど、今は私たちもそれどころじゃない。
「・・・クァタルさんだったよね?」
「は、はっ。クァタル、とお呼びください」
声を掛けると、我に返ったクァタルさんがビシッと姿勢を正した。
表情を緩めて目を細めたエバンさんがクァタルさんを手のひらで示す。
「フィオレ様。こちらはクァタル・リオネルです。私と同じくエリステ公爵領の出身で、かつては騎士爵を賜っておりました」
リオネル? やっぱライオンじゃん!
エリステ公爵領って何だっけ?
えーっと、オルレーシア様のご実家だっけ。
ああ。そういうことか。
クァタルさんはオルレーシア様をよく知っていたから、子供の頃のオルレーシア様と私を見間違えたとか、そういうのかな?
「かつては」ねぇ・・・。
考えられるのは”ヒト族至上主義”絡みだろうか?
何か事情が有りそうだけど、今は後回しだな。
フレーリアの存在も知っていたみたいだし、かと言ってフレーリアの名前が先に出なかったということは、近年のフレーリアとは会っていなかったとか、どこかに時間的なギャップが有ったのかも。
まあ良いや。細かい話は後で訊けば良いだろう。
「・・・そっか。クァタルさん。詳しい状況はエバンさんから聞いて貰えると良いんだけど、ちょっと署まで―――、じゃないや。ちょっと領主館まで戻ってくれるかな? 他の人たちも一緒に」
「はっ。了解いたしました」
私の失言を綺麗にスルーしてクァタルさんが答える。
危ない危ない。頭の中で考えていたことが口に出ちゃったよ。
クァタルさんとは意思の疎通が取れたけど、他の人たちへ目を向ければ髭モジャオジサンの睨み付けるような目と目が有った。
「アンタは?」
「貴様、口の利き方に―――」
止めに入ろうとしたエバンさんをサッと手で制する。
ごめんね。
行動としてはエバンさんが正しいんだけど、敵意―――、じゃないな。ここまで警戒心を剥き出しにしている相手を正論で押さえ付けに行くのは良くないよ。
「・・・エバンさん。ウォーレス家の客人だと聞いてるでしょ?」
「はっ。差し出口を。申しわけございません」
グッと反論を飲み込んでくれたエバンさんに心の中で感謝する。
ありがと。後でフォローを入れに行くから、今は堪えてね。
そして、エバンさんに口を挟ませた髭モジャオジサンだ。
強い警戒心を露わにしているのは、このオジサン1人だからね。
説得するのがこのオジサン1人なら負担はまだ小さい。
髭モジャ顔を見返して観察する。
これがドワーフ族かぁ。
身に纏ってる雰囲気は下町の町工場に居そうな職人っぽいね。
ステレオタイプなドワーフ族のイメージそのままだ。
見るからにオジサンって年齢だけど、身長は私が少し見上げる程度だから、140・・・、150センチメートルぐらいかな?
低身長だけどムキムキの筋肉で横幅も奥行きも太くって、岩の塊みたいな印象を受ける。
二の腕なんて、私の胴ぐらいの太さが有るんじゃないかな。
パワーは有りそうだし、脳筋のニオイがプンプンする。
数ヶ月間も脳筋に囲まれて暮らしてきたんだから、私も脳筋の扱いには慣れたもんだよ。
こういうタイプには回りくどい言い方をしない方が良い。
再会⑫です。
ドゥワーフ!!
次回、っぽい!?




