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第53話











同時刻、窟内別所にて─────。




「おー……。こりゃ、ヒデェ有様だなぁ……大丈夫か? コイツ……」


「う゛、う゛ぅ……」



入口付近で闘やり合っていたリルとナターシャの二人はその実力がほぼ互角であった為、長期戦に入ってからは膠着状態となり密かに洞窟に侵入したカムには気付かなかった。


リルとナターシャの戦闘を見たカムは一瞬、リルの手助けに入ろうかとも思ったが先に問題児ジャンとチビ助(実彩)の回収(特にジャン)をした良いだろうとカムは気配を消して洞窟内へと侵入はいった。



洞窟内に入って最初に感じたのはカムにとってはとても身に憶えのある気配。


まさか、という気持ちと。やはり、という直感がカムの理性とせめぎ合った。


気にはなるが………この気配がもし、カムの予想通りの存在のモノならば。盗賊風情に大人しく捕まるようなタマでは無い。─────気にはなるが、やはりジャンと実彩を探すのが先だと血の匂い(・ ・ ・ ・ )を辿りにカムは残りの盗賊になるべく気付かれぬよう、足音を殺しながら静かに駆け出した。



そして今、ドーム(偽造されてはいたが)のような土の壁の中から血塗れの上、瀕死状態のジャンを発見したのだ。


明らかに嬲られ、暴行させたと思われる打撲と傷跡に、カムは顔をしかめると同時に首を捻る。



「こいつはぁ……どっちがやったんだ………?」



もしイシュールがやったのだとしたらジャンにトドメも刺さず、隠すようにして放置する必要は無い。



実彩がやったのだとしたら、ジャンを見つけた場所の荒れようから察するに敵の目前でジャンを〆上げたことになる。



どちらであったとしても現実味が乏しく、有り得ない状況下だ。



(だがなぁ……。このアホガキの怪我の様子からだと、どう観ても別々の奴からボッコボッコにされたとしか思えねぇんだよなぁ…………)



斬り傷と打撲痕



全く違う傷の跡



明らかに別々の者から受けたと思われる暴行の跡に顔をしかめるもジャンの行いを許した訳では無いカムは、取り敢えず、怪我の治療をしてやることにした。



「………」



ジャンの頭に手を翳せば、カムの手の平から光のようなものが現れ、ジャンの全身を包み込んだ。



「う゛……」



ジャンが小さな呻き声を上げ────次第に穏やかな寝息を立て始めた………。


カムの手の平から光が消えれば、ジャンに着けられていた傷跡は消え去っていた。カムがジャンの傷を癒したのだ。それは───実彩が保持している治癒魔力。カムもまた治癒魔力の保持者だったのだ。


取り敢えずは傷の手当はした。

精神が休息を求めてしばらくは目を覚まさないだろうが……今、ジャン程度の腕では逆に足手まといだから丁度良いだろうと、せめてもの情けか、去る前にジャンの上に自身の上着を被せてやった。


そして実彩の捜索を始めたカムは、遠くで戦闘をしているかのような金属音が聞こえてきたのに気付いた。



「……」



カムは僅かに響く金属音に険しい顔つきをした。

金属音の先に、カムが洞窟に入った時に感じた例の気配(・ ・ ・ ・)があることに気付いたからだ。これには眉間に深い皺を寄せて小さく唸り声を上げた。



(まさか……アレが本当にこんなちんけな洞窟に居るってぇのか?)



もしこの戦闘音が実彩とアレと戦っている証だとするならば、それは大変拙い事態だ。ただでさえ試験とは関係のない、他国のスパイと思しきローブ姿の連中が出てきただけでもヤバい事態なのに……トドメにアレまで出てくるとは。



(いざってなったら俺が本気出すしかないか……)



カムが本気を出せば大抵の敵は目でもない。しかし一度、カムが本気を出してしまうと少々困ったことになる。カムの持つ力はあまりにも桁外れなものの為、開放してしまうと周りが大変なことが起こってしまうのだ。


だからこそ、カムは滅多なことでは本気を出さない。だが事態はカムにそんな事を言わせられない所まで進んでしまっている。


戦闘の気配がある方に向かって走ったカムが見たものは――――――




「ニトぉおおおーーー!! テメェーーー!! いい加減に武器化しやがれぇぇぇえええええーーーー!!!」


「――――よそ見とは随分と余裕だな貴様!!」




ローブ集団の一味と思しきイシュールと実彩がり合っている場面であった。


ただ二つ、おかしなことがある。



一つは何故か実彩はいつも愛用している長針ではなく、盗賊の物であろう錆びた剣を投擲(………剣は投げて戦うものではない)しながら戦っていること。



二つ、実彩は頭の上に真紅の竜の雛と思しき生き物と肩には小さな白い子ウサギを乗せているということだ。



「……………………」



何がおかしいっていや全部だろ。


あの子ウサギは見覚えがある。確か初めて会った宿の食堂で実彩と一緒にメシ食っていた。ウサギなのに干し肉(*しかもウサギ肉)食べていた奴だ。なんでそんなのが所にいるんだ? 何時からいた??



…………鍼灸針の正体がニトであることを知らないカムからすれば当然の疑問であった…………



そして何より一番の疑問が実彩の頭にひっついている生き物のことだ。その生き物はカムの予想通りの生き物であると同時に、振り落とされないように必死にひっついているようだが────実彩にとっては邪魔で仕方ないだろうという、どうでも良いことが頭に浮かぶ。



「あー……? こりゃあ一体、なにがどうなった状況なんだ…………?」



思ってもいない事態に、カムは困惑も露わに指先で頬を掻きながら二人の戦いを様子見することにした。











こうなった原因は一言で言うと運が悪かった。さらに言ったらニトが悪い。


竜の雛を頭に乗せたまま洞窟から出よう────ジャンは放置することにした。後で回収すればいいだろう────とした実彩は途中で宝物庫に向かって駆けてくるイシュールの姿を見つけてしまった。どうやら向こうも実彩に気付いたようだ。


余計な戦闘をする気のなかった実彩は舌打ちしつつニトに武器化するように言った。



「ニト、針の姿になってくれ。増殖させたお前を大量に投げつけてその間に隠れてアイツをやり過ごす」


「………」


「ニト?」



ニトはプイッとあたかも、聞こえてませ~んとでも言うようにそっぽを向いたのだ。……………おい。



「オイコラ無視すんな。さっさと武器化しろって言ってんだろ? アイツがくる前に早く………」



実彩の肩にいたニトが後ろ足で実彩の頬をドカッと蹴りつけた…………流石に目が据わって、ニトの首筋をグズンと掴むとイシュールから距離を取りつつ、ニトをプラプラ揺らしながら引きつく口元を抑えて話し掛ける。



「───ニト? 一体どういうつもりだ?」


「………(プイッ)」



イラッ



一人と一匹の間に流れる不穏な空気に、実彩の頭の上にいた竜の雛は『ギ、ギャァー……』と困惑した様子で、それでも実彩の頭の上から落ちないようにしがみ直した。



「お前さ……さっきから一体なんなんだ? 何が気に入らねぇのか知らない、が。こちとらお前の我が儘聞いてやる程の余裕も時間も無いんだよ! 全部終わったらいくらでも付き合ってやるから今は鍼灸針になってくれ!!」



向こうは洞窟の地理に明るいのか。やり過ごしたくともどこに何があるか分からない実彩と違ってイシュールは例え実彩がフェイントをかけて撒こうとしてもすぐに気付いて追いすがってくる。もはや戦闘は避けられないだろう。だからこそ、魔術師であることをギリギリまで隠しておきたい実彩からすれば現段階でニトが使えないことは困るのだ。


実彩の格好から気付かれているのだとしても、実彩がどの系統( ・ ・ ・ ・ )の魔術師では無い(・・)という事実を切り札としてなるべく隠しておきたいからだ。



「……ニト!!」



だが実彩がいくら強く言ってもニトは知らん顔。

少しずつ苛立ちを覚える実彩に僅かに竜の雛が怯えた……。



『ギュゥ~~』



情けない声を出す竜の雛に実彩は冷静になろうとするもどんどんと近づいてくるイシュールの姿を目にしてどうしても焦りを覚えてしまう。



「見つけたぞ貴様!! その頭に乗せている爆炎竜エクスプローシブレイムドラゴンの雛を返してもらうぞ!!」


「エクス………何だって?」



聞いたことが無い魔獣の名と思しき言葉を言ったイシュールに実彩は盗賊団の後ろにいる支援者はコイツらかと瞬間的に察した。


恐らく自分達が手にするはずの竜────爆炎竜エクスプローシブレイムドラゴン────の雛が実彩の頭に乗っかっているのを目にして動揺して口を滑らしたのだろうが。



(つーことは、だ。何があってもアイツ等にはコイツを渡す訳にはいかねぇってことか────!!)



心臓に向かって突きを入れられそうになった実彩は間一髪でイシュールの攻撃をかわす。


近場に盗賊がほっぽらかしたと思われる錆びた剣や欠けた剣をイシュールの斬撃をかわしながら拾うとニトを投げている要用でイシュールに投げつける。



「小賢しいわ!!」



キン、キン、キン────



甲高い金属音を奏でて弾かれる剣を後目に、実彩はなんとか使えそうな剣を拾うとイシュールの放つ斬撃を受け止めた。



キィン───ビキ、ビキキ



しかし傷んだ剣では鋭く重いイシュール太刀筋を一度受け止めただけで複数のひび割れを起こす始末。



「ニトぉおおおーーー!! テメェーーー!! いい加減に武器化しやがれぇぇぇえええええーーーー!!!」


「――――よそ見とは随分と余裕だな貴様!!」



ひび割れた剣をイシュールに投げつけて距離をとろうとするもイシュールがすぐに追いすがる。


ブンッと空を斬る音と共に迫る刃をかわす実彩の動きに何時ものような繊細な色が無い。


頭に乗る竜の雛と再び肩に戻ったニトの所為で重心が偏り、バランスが上手くたどれないからだ。今はなんとかイシュールの斬撃をかわせているが、それも時間の問題だ。



「……っつ、クッッソ!!」



ビリッと何かが破ける音が実彩の耳元で聞こえた。

どうやらイシュールの斬撃が実彩の纏うローブに引っかかったようだ。


僅かに裂けた首筋近くから胸辺りの布の隙間から実彩の肌がチラチラと覗く。


運良く髪の色が判る程裂けた訳では無いが、卸したばかりのローブがそうそうに破かれた事実に実彩は微妙にショックを受けた。



「はぁあああ?! マジ……ざっけんなよぉおおお!! ニト!! ホンットいい加減にしねぇとテメェ、仕舞いには捌いて吊すぞ!!!」


『ギャアウ?!』




過激な実彩の言葉に、何故か竜の雛が衝撃を受けていた。











竜の雛はなんで衝撃を受けたのでしょうかね?

(笑)


次回は急展開か!?

ローブ集団VS実彩達の決着間近!


身に憶えのあるイシュールが切り出した奥の手に実彩がピンチに陥る!?

その時カムはどうするのか? 他の面子はどうなっているのか? 


ごうご期待!!



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