第52話
灰の中から少しずつ復活してま~す。
グルルッ……と唸っているドラゴン。
竜と思しき真紅の魔獣の出現に、さしもの実彩も驚きを禁じ得なかった。
(なんでこんなところに─────ドラゴンなんかが居るんだよ!?)
ほぼ最強の生物と位置付けらせている竜。
明らかに子どもではあるからといって、侮ればその報いを命で贖ってもおかしくはない存在だ。
それが──場違いにも盗賊団の根城である洞窟にいるわけがない。
「っ! テメェら、なにしてやがる!! 早くその餓鬼を殺せっっ!!」
ザンザの叱責に、漸く動き出した部下の者達は目配せ一つで実彩の周りを囲い込んだ。
「────鬱陶しい」
目の前の竜も気になるが、周りを囲い込んだ盗賊達に据わった眼差しを送ると。実彩はノーアクションで魔術を行使した。
大気中に満ちる魔素を視ることが出来る実彩の『眼』を持ってすれば、容易く術を発動出来る。
「うっわぁぁ?!」
「な、なななっ………いっ、がっはあ!!」
「かし、頭ぁあああ!!」
無詠唱で発動した実彩の魔術に構える暇さえ与えられず、ザンザの命令で実彩に向かっていった盗賊達は皆一様に魔術の餌食とかし、息の根を止めた。
「無詠唱?!」
驚き、目を見開くザンザの懐に素早く実彩が潜り込む。隙だらけのザンザを見逃す実彩ではない。
「!?」
「────寝てろ」
ミッ、シィィ!!
ふぅ!! と、ザンザの鳩尾に実彩の拳がめり込んだ。微かな呻きを上げるも、ザンザは呆気なくその場に崩れ落ちた。
完全に落ちたことを確認した実彩はザンザをリュックから取り出した頑丈な縄で拘束する。
(さて……残るは………)
『グルルッ……グルルルル………』
警戒心も露わに実彩を威嚇する竜のみ。
しかし流石の実彩も竜に関してはどうするべきか頭を抱える。
セフィロトから貰った本で竜の生態系までは調べてなかった実彩はこの事態にどう対処すればよいか迷った。置いていこうにも明らかに力を削がれている竜の雛。力の無い竜なんて希少種をこの場に置いて行って残っている残党や、ローブ姿の襲撃者たちに見つかったら一体、どうなることやら……。
セフィール達の目的がこの竜の雛だと知らない実彩は、そんなことを考えながら狭まっていく選択肢にため息を吐きたくなった。
(あー……。やっぱり、連れて行くしかないよなー。下手にどこかにかくしても雛自体が大人しくしてくれるとは限らないし………)
だがそうすると……。
『グルルッ……』
この警戒心マックスの雛をどうにかして宥めなくてはならない。
しかし、人間に対して敵愾心を抱いているであろう雛に無防備に近付けば暴れることは必定。本当に、どうするべきか……?
「きゅ!!」
すると針の姿から一転、子ウサギの姿になったニトが実彩の懐から飛び出して竜の雛の元へと向かうではないか!?
「ニト!?」
「きゅきゅ!!」
まるで、任せろ! とでも言うように駆けていくニトを止めようとした手が空を切った。
(いやいやいや!? お前が行っても喰われに向かっているようにしかみえないからな!?)
雛に向かっていく子ウサギ……。どう考えても迎える先はスプラッタな光景しか浮かばない―――!!
『グル?』
ほら見ろ……。ニトに気付いた雛が目を輝かせているぞ……。尻尾をフリフリさせて明らかに、メシだ!! って顔で喜んでいるからな?!
キラキラしながらニトをじっ、と………じぃぃぃっと見詰める竜の雛。
そんな竜の雛に向かってニトは……
「きゅきゅきゅ――――――ギュゥゥ……ヴ!!」
『グルゥウ?!』
雛の目前まで近付いたニトは一旦止まって両脚に力を貯めた。そして─────ふんじばった両脚の脚力を利用した見事な頭突きを雛の顎に命中させた……。
え――――――!?
思いも寄らないニトの行動にポカーンと口を開けて唖然とする実彩。
『グルッ?! グル、グルル! グルルルル!!』
頭突きの衝撃が強かったのか……顎に引っ付いているニトを振り払おうと涙目になりながら首を振るわせる雛は────────引っ付いてる?
「ニト……お前…………」
実彩はどこか引きつったようにニトをガン見する。
コイツ……自分の体毛を針みたいに変化させて雛の顎に刺さってやがる─────?!
通りで雛が涙目になりながら必死にニトを振り払おうとするわけだ。恐らく皮膚に食い込んだ針と化したニトの体毛が痛いのだろう。なんて質の悪い……。ハリネズミかよ!!!
武器として大小様々な鍼灸針になるわ。
肉は食うわ。
体毛は針みたいに変化するわ。
幾らセフィロトが武器として創ったウサギとはいえ………どこか間違ってないか?
『ギュ、ギュル………グルゥゥゥ~~~』
どんなに振り払おうとしても刺さって離れないニトに、もはや竜の雛は大きく真っ赤な目からポロポロと涙を零し始めた…………。
なんか………すまん。そんな相棒で……────。
思わず目線を逸らしたくなるも、このままではあまりにも雛が可哀想である。
「………ニト、いい加減に止めなさい」
竜の雛の元にしゃがみこんでニトの首根っこをひっ捕まえて雛から離そうとするも、ニトはすぐさま残りの体毛も針のように硬質化させて実彩の手を阻む。
「オイコラ、テメェ……いつから子ウサギからハリネズミに転職したんだよ………あ゛? いい加減そいつから離れやがれ!!」
『ギャアアア~~~~!!』
ポロポロ、ポロポロポロ………クスン、クスン………。
えっぐえっぐ泣いてる雛は悪戦苦闘する実彩に、さっさとコイツを外してくれ……!! としゃがんでいる実彩によじ登り始めた。
「いや、待て。ちょっと待て。今、お前外してやるから……な? だから登るな、マジ止め……っ! いっった!? いっっっ、痛たたた……!? ニト、マジ痛ぇえええ!!?」
全身硬質化したニトの体毛の洗礼を受けることとなった………チクチク地味に痛い上に痛みが最後まで地味に残るニトの体毛に分厚いローブの上からといっても痛かった………。
雛はそれはそれは力強く実彩の頭にしがみつく。器用にも、ニトの引っ付いた顎を逸らしながら、だ。
大粒の涙が実彩の頭の上を濡らすも実彩には気にする暇がない。
「ニト……!! マジ、離れてやれ! 私も地味に痛いわ!!」
「きゅきゅ~~~♪ きゅ!」
鼻歌のような鳴き声を上げながら漸くニトが竜の雛から離れた。
意気揚々と地面に着地するニトを尻目に、実彩は頭の上で未だにグズっている竜の雛をどう泣きやませるかと思案する。
……………取り敢えず、涙は諦めたけど鼻水は勘弁してくれ……………。
『ギュルゥゥ~ギャウ~~ゥウ~~~……………?』
実彩の頭の上で散々ベソを掻いていた竜の雛が不意に実彩の頭────正確にはフード────の匂いを嗅ぎ出したと思ったら尻尾をパタパタさせて機嫌良さげに、ギャア! と鳴いた………。
「……?」
『ギャウ、ギャウ♪』
しきりに実彩の頭に自身の頭をこすりつけてくる雛。まるで猫がすり寄って来ているような仕草に、実彩は困惑する。
突如として変わった竜の雛の態度。
何故か誇らしげに実彩を見上げているニト。
状況の変化に着いて行けず、どこか呆気に取られる実彩。
───まあ、取り敢えず。大人しくしてくれるなら難なく竜の雛を連れ出すことが出来るから、良いのか………?
そう思う事としよう。
実彩は頭の上で尻尾をパタパタ振るう竜の雛を乗せたままニトに声を掛ける。
「ニト、そろそろ行くよ。さっさと針の姿に戻ってくれ」
「きぃ、きぃ!!」
するとどこか、怒ったように声を出すニト。
何なんだ? と思いながらもニトに催促すると、ニトは実彩を見上げ(睨んで?)ながら鼻先をピスピス動かすと大きくジャンプして空中でクルリと回転する。
ボフン
回転すると同時に鍼針の姿に戻ったニトの姿に竜の雛がブルブル怯え初めていたが、気にせず、空中に止まっている鍼針になったニトを実彩が手に取ろうとしたら─────。
ヒュゥウ───!
「?!───ぁぶっね!!」
実彩に向かって高速でニトが飛んできた─────顔面に。
「っ、…………人の顔を串刺しにする気か? ニト!!」
「…………………」
顔面に刺さる直前に、辛うじてニトを掴んだ実彩は顔面をひきつらせながらギリリ!! と音が出るほどにニトを握り締めた。
ブルブルガクガク、ブルブルガクガク………
携帯バイブのようにブルブル震え上がっている竜の雛。再び泣き出しそうになっていたので落ち着けという気持ちを込めて頭を撫でてやった。
「……………」
針の状態で無言を貫くニトに実彩はため息を吐いてニトを懐にしまった。
こうなったニトは何を言っても無駄だと分かっているからだ。なんで急にヘソを曲げているのかは知らないがしばらくたったら元に戻るであろうと、実彩にニトを放っておく事にした。
──────────お陰で、再びイシュールと対峙し、いくら怒ろうが叱ろうが宥めようが武器化してくれないニトに焦る羽目になるのを。
実彩は知る由もなかった………。
そして実彩は頭に竜の雛を乗せたまま、縛り上げたザンザ達を後目に宝物庫を後にした……。
ニトって、なんなんだろうね?
作者も分からないや~←無責任でしたか? あっ、はい。スミマセン……(゜ロ゜;)




