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第23話



結論として、クリストファーとリュカはスカイから脱出することが出来なかった………。


獣対策の高い壁に遮られた唯一の出入り口である大門には何とかたどり着けた2人だが、タイミング悪く大門の外に魔獣が数匹彷徨いているため急遽、大門は閉められた。


強弱大小様々な魔獣が闊歩するこの大陸では良くあることだが………クリストファーは閉ざされた大門を忌々しそうに睨みつけた。


リュカは先ほどクリストファーから言われた言葉に傷付き、傷心していたのだが、大門が閉められている様を見てどこか安堵しているようだった。


やはり実彩のことが引っかかっているのだろう。


しかしクリストファーからすれば状況は最悪である。大門の前には第二夫人のローゼの手の者だろう。たくさんの柄の悪い男達が門の近くでひきしめあっている。


もし、ここで見つかればクリストファーはともかくとしてリュカはほぼ確実に捕まるだろう。それほどの人数だ。



(多勢に無勢………流石の僕もこの人数を相手取るのは無理ですね。大門が閉まってしまうなんて想定外ですよ。開いてさえいたら何とか強行突破出来たのに)



唯一である出入り口に手が回されているのは想定していたが、大門が閉められたのは痛かった。クリストファーは次善策を急いで考えるが自身が焦っているせいか考えがまとまらない。


そうこうしているうちに、とうとうクリストファーとリュカは見つかってしまった。



「いたぞ!! あそこだ!?」



 ゴォオオオ!!



男のすぐ近くに炎の柱が駆け抜ける。

リュカの放った魔法だ。



「走ってください!」 


「は、はい!!」



クリストファーに呼びかけに返事を返しながらもリュカはまだ何か考えているようで気がそろぞろであった。



「あっ………!?」



とうとうリュカは足を滑らせ転んでしまった。



「! もらったあ……!!」



すぐさま追っ手の手が伸びる。

クリストファーは顔を青ざめ、咄嗟に詠唱を紡ごうとしたが他の追っ手の追撃を受けて途中で切ってしまった……。



「っ!! ………リュカ殿!!!」



クリストファーの焦った叫びが響き渡る。

















『う~ん…………これはなかなか大変な事態だね~実彩ちゃんは大丈夫かなー?』



大草原に佇む天を支える巨大な大木。

その周りを浮遊する実彩と似た面影の女。


実彩の従姉妹の姿を借りたセフィロトだ。


彼女(彼?)は眼差しを遠くに飛ばしていた。

どうやら実彩達の様子を盗み見ているようだ。



『実彩ちゃんたら。ここを出てから一度も僕に話しかけてくれないんだもん。いくら僕だって少しくらいは寂しいよ(´;ω;`)』



フワフワ本体である巨木の周りを浮かんでいたセフィロトは近づいてくる気配に気がついた。


………あれからずっと通いつめてくる彼にセフィロトは苦笑を禁じ得ない。



『やあやあ、アルフォート一昨日の昼ぶりだね。何かあったのかい?』



おちゃらけながら話し掛ければすぐさま冷たい視線をよこす片眼鏡モノクルの青年。



「……いい加減、吐いたらどうなんですか? セフィロト。シオン様は暫くの間は様子見するようですが、生憎、俺は気が短いんですよ…………さっさとあの女を起こす方法を教えろ」



低く、昏く、地を這うなにかを含んだ声。


二千年。


人の身でありながら二千年もの間、狂うことも、壊れることもしないまま生きてきたアルフォート。


いや、アルフォートだけではない。

アルフォートが敬称をつけて呼ぶシオンもまた、人の身では計り知れない永き時をずっと生き続けてきた。


ただ、一つの願いの為に。



『んー……。僕からは言えることは、もしかしたら? 程度の可能性の話だからね~。………実を言うとさ。君達に話したのはちょっと失敗だったかなって思っているんだよね、僕。何しろコレは、本当にささやかな可能性だ。喜與子が、本当に目覚めるかどうかは、僕にも断言出来ない』



実際に、セフィロトは自分が無責任なことを言ってしまったと思っていた。


可能性がある。


そんな話しをしてしまったら彼らが大人しくする筈が無いのだ。



「だが、貴様は可能性があると断じた。低かろうが曖昧だろうがそんなことはどうだっていいんだよ。関係ない。最終的にあの女が目を覚ますならそれでいいんだ」



強く、キッパリとアルフォートは言い放つ。



「あの女は俺の獲物だ。俺が、殺す。他の誰にもあの女を殺させやしない」



 俺が殺す。



物騒過ぎるその言葉に、セフィロトは………やはり苦笑しか返さない。



『アルフォート。君は、本当に、彼女のことが好きだよねぇ………』



その台詞に、アルフォートは一気に機嫌が悪くなった。



「勘違いしるな。あの女とは元々そういう契約だ。俺を従える変わりに、いつでも俺に命を狙われると─────」



アルフォートの脳裏に過ぎる在りし日の女。


自分を従える変わりに、命を対価に、下し続けるとあの女が言い切ったあの日から。



「あの女を殺すのは、殺していいのは俺だけだ」



そう、すべてはあの日から始まった。

あの穏やかなようで激しくも鋭い瞳に魅入った日から。



「…………」



また来ます。と口調を改めて言い捨てたアルフォートはそのまま立ち去っていった。



『アルフォートも素直じゃないな~。おっと、どうやら僕が見ていないうちに向こうにも進展があったみたいだね! (≧▽≦)』



ウキウキと実彩達の覗きを再び開始するセフィロトは、ふっとアルフォートの去っていった方を向いておもむろに呟いた。



『大丈夫だよ、アルフォート。僕の予想が正しければ────実彩ちゃんにすぐに会えるよ……』



最もその時は、実彩ちゃんにとっては最悪な出来事の真っ最中だろうけど、ね。
















追っ手の伸ばした手はリュカに届くことはなかった……。


何故なら、その手がリュカに触れる寸前、男の腕には無数の針が生えたからだ。



「うっぎィィィいやあアアアアアア!!!!」


「!?」


「!!」



身に覚えのある針に、クリストファーとリュカは同時に固まった。クリストファーの相手をしていた追っ手達も針を生やした仲間の姿に戦慄している。



「お前ら………何だってまだスカイの中にいるんだよ……………とっくに外に逃げ出していると思ったらこんな所に居やがるし。………クリストファー。何してんだ」



呆れと苛立ちの混じった皮肉に、クリストファーは硬直状態から回復することが出来た。



「……仕方ないでしょう。足手まといがいたんですから。僕1人ならさっさとスカイを脱出していましたよ」



実彩の言い方に腹が立ったのだろう。吐き捨てるかのような言い様になっていた。



「……っ」



足手まといと言われたリュカは一瞬ビクッとなりながらも顔を実彩の声が聞こえた方に向ける。


実彩は家屋の上で片膝を立てて座りながら此方を見ていた。



「はぁ……クリストファー。お前、馬鹿か? リュカがいたから脱出し損ねただと? お前それでも冒険者かよ。これから先、護衛の依頼を受けた時に護衛対象が邪魔だったので逃げることが出来ませんでした、とでも言うつもりなのか?」



明らかに呆れを含んだ眼差しがクリストファーに注がれる。


あまりの言いぐさに、クリストファーも腹を立てたが、実彩の言うことの方が正しいと分かるので何も言い返せずことが出来なかった。


そんなクリストファーを横目で見つつ、家屋から飛び降りた実彩は転んだままのリュカの前に立った。



「で? お前は何時まで転がっているつもりだ、リュカ?」


「え!? あっ、その……」


「………はぁ」


あたふたし始めたリュカにため息をつきつつ、実彩はリュカに手を差し伸ばす。


リュカはおずおずとその手を取りながら立ち上がるのだった。


その様子を実彩の頭の上から見ていたニトは………どこか呆れた風情を醸し出してた。ウサギなのに。


なにはともわれ無事、合流を果たした3人は追っ手を蹴散らしながら身を隠せる場所を探すのだった。















「リュカ、とりあえず服脱げ」


「はい!!?」


「ぶっ!?」 



スットンキョな叫びを上げるリュカと思わず吹き出したクリストファー。


3人は追っ手をまき、人気の無い廃屋に逃げ込んだ。そして離れていた間の出来事を互いに話していた途中での突然の実彩の言葉にクリストファーとリュカは仰天した。



「何をいってるんですか、突然!? 仮にも女性が言う台詞じゃないですよ!!」


「そ、そうですよ! 服を脱げだなんてそんな………あわわわわ」



慌ててる2人をよそに実彩は………。



「仮にも何も正真正銘の女なんだが………あぁ、言葉が足りんかったな。リュカ。脱ぐの上だけでいいから。下はむしろどうでもいい」



あっけらかんと言う実彩に2人はさらに頭を抱える。



 そうじゃないだろ(でしょ)!!!!



そんな2人をよそに実彩はリュックの中をゴソゴソしながら説明する。



「まぁ待て。こんなことを言うのには理由がある。実はな、お前らと別れた後にバズーラ家の屋敷に侵入したんだが………そこで面白い物を見つけてな」


「ちょっと待ちなさい。貴女は1人で一体何をしているんですか!!!」


「ミーシャさん!?」


「そっちの方が手っ取り早いかと思ってな………お? あったあった」


けんもほろほろ、人の話しを聞いちゃいない。

実彩はお目当ての物をリュックから取り出した。

実彩の手にあったのは、正妻ソニアの部屋に隠されていた日記だった。



「コレは故人である正妻ソニアの日記だ。これに面白いことが書いてあったんだ」


「ソニア様の日記!? そんなものが屋敷にまだ残っていたなんて………」


「リュカ殿。問題はそこではありません。問題なのは彼女が貴方の暮らす屋敷に勝手に侵入し、なおかつ、そこから物品を盗み出したことと、日記という個人の記録を覗き見たことが問題なのです!!」



至極真っ当なことをリュカに訴えかけるクリストファー。3回も問題いうなや。


その声がうるさかったのか、ニトが実彩の頭に足ダンしながらミミをピクピクさせている。



「…………」


「…………」


「ん? なんだ? 2人もこっち見て」



胡乱な目で実彩の頭を見ているクリストファーに代わり、リュカがおもむろに質問する。



「えっとですね………。ミーシャさん、そのウサギはどうしたんですか?」




「え、今更?」




 今更聞くの?













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